損益計算書で消費税はどう処理する?税抜・税込経理方式のメリット・デメリット

損益計算書で消費税はどう処理する?税抜・税込経理方式のメリット・デメリット

損益計算書における消費税の表示方法は、会社の損益管理と税務申告において重要な役割を担っています。したがって、適切に消費税の経理方式を理解しておくことが大切です。本記事では、損益計算書での消費税の処理方法に焦点を当て、特に「税抜経理方式」と「税込経理方式」という2つの主要な経理方式について詳しく掘り下げます。各方式のメリットを明確にし、企業が適切な経理方法を選択することの重要性を解説します。

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損益計算書は消費税込みと消費税抜きのどちらで作る?

損益計算書の作成において消費税込みと消費税抜きのどちらで作成するかは、実は事業者の任意に委ねられています。税法上、どちらの作成方法を選んでも問題はありません。消費税が関わる取引を行う場合、消費税を別で計算を行う「税抜経理方式」と、消費税を含んで計算を行う「税込経理方式」の2つの経理方式があります。

たとえば、消費税が10%であるとして、税込1,100円の商品を販売したとしましょう。税抜経理方式では、取引が行われる際に、1,000円で商品を販売してその対価を受け取り、100円の消費税を預かったと考えます。これが税抜経理方式の考え方です。

一方、税込経理方式では、1,100円で商品の販売対価と消費税を預かったと一旦考えます。その後、決算の際に、預かっている100円分の消費税額を計算します。これが税込経理方式の考え方です。

原則課税制度を利用する場合、つまり通常の消費税の申告を行う場合には、税抜経理方式が適しています。取引の都度、支払った消費税額と預かった消費税額を明確にできるからです。

簡易課税制度を利用する場合、すなわち売上に基づく簡単な消費税計算をする場合には、税込経理方式が適しています。決算の際に、1,100万円の売上があった場合、100万円分の消費税を預かっていると簡単に計算することができるからです。

税抜経理方式では、事業活動によって生じる収益や費用を、消費税を抜いた金額で記録し、消費税額は別の勘定科目で管理します。

一方で、税込経理方式では、売上や仕入、経費などの取引を消費税込みの金額で記録します。この方法は、消費税を取引の都度仕訳する必要がないという意味で、会計処理をシンプルにすることができます。そのため、取引規模が大きくなく、消費税率の異なる商品を販売していないような小規模な事業者や消費税の納税義務がない免税事業者に適しています。

最終的に、どちらの方式を選択するかは、事業者の規模、業種、会計処理の複雑性、税務申告の要件など、さまざまな要因を考慮して決定されるべきです。また、会計ソフトウェアを活用することで、税抜経理方式でも簡単に処理することが可能になります。よって、自社の状況に合わせた適切な経理処理方式を選択し、損益計算書を作成することが重要です。

損益計算書を税抜経理方式で作成するメリット・デメリット

税抜経理方式で消費税を損益計算書に表示することには、次で説明するようなメリット・デメリットがあります。まずは、税抜経理方式について詳しく解説していきましょう。

税抜経理方式とは?

税抜経理方式とは、取引を消費税抜きの本体価格と消費税の金額に分けて記帳する方式です。この方式では、本体価格と消費税を別々に仕訳し、納める消費税額は仮受消費税と仮払消費税と仮受消費税の差額の金額となります。

一般的には、税抜経理方式が多くの事業者に採用されています。取引ごとに仮受消費税額と仮払消費税額を明らかにすることができるからです。

具体的な仕訳例を挙げると、以下のようになります。

仕入時:(5,000円の仕入に対して消費税が500円の場合)

借方金額貸方金額
仕入5,000買掛金5,500
仮払消費税500

売上時:(7,000円の売上に対して消費税が700円の場合)

借方金額貸方金額
現金7,700売上7,000
仮受消費税700

決算時

借方金額貸方金額
仮受消費税700仮払消費税500
未払消費税200

納付時

借方金額貸方金額
未払消費税200現金200

たとえば、5,000円の商品を仕入れ、消費税が500円の場合、買掛金5,500円として記帳されます。他方で、7,000円で商品を売上げ、消費税が700円の場合、現金7,700円として記帳します。そして決算時に仮受消費税700円から仕入時の仮払消費税500円を引いた差額の200円が納める消費税額となります。

税抜経理方式のメリットは本体価格と消費税を別に計算するので、商品本体の損益を明確にすることができる点にあります。たとえば、税抜き500円で仕入れた商品を税抜き1,000円で販売した場合、500円の利益が出ると考えられます。別途、消費税は仕入れた際に50円分支払い(仮払消費税)、販売した際に100円分預かる(仮受消費税)ことになるため、50円分の未払消費税があることが計算できます。

デメリットとしては、消費税を含まない本体価格と消費税を分けて記帳するため、仕訳処理が複雑になります。

損益計算書を税抜経理方式で作成するメリット

税抜経理方式で損益計算書を作成するメリットの一つは、期中でも損益を把握できることです。税抜経理方式では、本体価格と消費税を分けて計上するため、損益の正確な把握が可能になります。

また、税抜経理方式のもう一つの大きなメリットは、少額の減価償却資産に関する節税が行える可能性があることです。具体的には、取得価額が10万円未満の固定資産に関しては、減価償却を行わずに一括で経費計上することが許されます。10万円以上20万円未満の一括償却資産については、一括で経費計上するか、3年間にわたって費用計上することが可能です。さらに、20万円以上30万円未満で中小企業者の場合は一定金額まで全額費用処理が可能となっています。税抜経理方式を採用している場合、税抜金額で固定資産の取得価額が判断されるため、消費税分の取得価額を抑えることが可能です。

損益計算書を税抜経理方式で作成するデメリット

税抜経理方式にはいくつかのデメリットも存在します。最も顕著なのは、税込経理方式と比較した場合に、仕訳処理が多くなる点です。本体価格と消費税を分けて計上する必要があるため、会計処理において余分な手間がかかります。特に、頻繁に取引が行われることの多い小売業のような事業では経理の負担となることがあります。

損益計算書を税込経理方式で作成するメリット・デメリット

税込経理方式で消費税を損益計算書に表示することには、次で説明するようなメリット・デメリットがあります。まずは、税込経理方式について詳しく解説していきましょう。

税込経理方式とは?

税込経理方式は、取引を消費税込みの金額で記帳する方式です。この方式の特徴は、税込で金額を記載するため、仕訳がシンプルになることです。消費税額は「租税公課」として決算時に計算されるので、取引の都度、消費税を計算する必要がありません。

例えば、仕入れが5,500円(消費税500円を含む)であれば、仕入れ全額を買掛金として仕訳します。同様に、7,700円(消費税700円を含む)で売上があれば、全額を売上として計上します。決算時には、売上時の消費税700円から仕入時の500円を引いた200円が「租税公課」として計上されます。

仕訳例の表は以下の通りです。

仕入時 :(5,000円の仕入に対して消費税が500円の場合)

借方金額貸方金額
仕入5,500買掛金5,500

売上時: (7,000円の売上に対して消費税が700円の場合)

借方金額貸方金額
現金7,700売上7,700

決算時

借方金額貸方金額
租税公課200未払消費税200

納付時

借方金額貸方金額
未払消費税200現金200

損益計算書を税込経理方式で作成するメリット

税込経理方式の最大のメリットはそのシンプルさにあります。消費税額を取引の都度計上する必要がないため、特に小規模事業者や会計処理に労力を回せない事業者にとって、経理の手間を軽減することができます。また、税込金額での記録は、取引の全体像を素早く簡単に把握するのに役立ちます。

損益計算書を税込経理方式で作成するデメリット

しかし、税込経理方式にはデメリットも存在します。主なデメリットは、決算時まで正確な消費税額が把握しにくいことです。売上高や仕入額にもとづいて決算時に消費税額を計算するため、売上高や仕入額が確定しないうちに正確に消費税額を計算するのが難しくなります。

損益計算書の売上高が消費税込み・税抜きのいずれかを確認する方法    

自社の損益計算書の売上高が消費税込み・消費税抜きのいずれで計上されたものなのかを確認する場合、以下の計算書類などを参照すると良いでしょう。

個別注記表を確認する

個別注記表は、貸借対照表や損益計算書などに付随して作成される、補足事項をまとめた表です。ここには、企業が税抜経理方式か税込経理方式のいずれを採用しているかについての記載があります。個別注記表を確認することで、損益計算書上の売上高が消費税込みで計上されているのか、それとも税抜き価格であるのかを知ることができます。

法人事業概況説明書を確認する

法人事業概況説明書は、法人名や事業内容を記載し、確定申告書と共に税務署に提出される重要な書類です。この書類には、消費税の経理方式に関する記載があります。法人がどのような経理方式を採用しているかを示すこの部分を確認することで、損益計算書の売上高が消費税込みか税抜きかを知ることが可能です。

総勘定元帳を確認する

総勘定元帳は、企業が日々の取引を勘定科目ごとに記載する会計帳簿です。仮受消費税の勘定科目があるかどうかを見ることで、企業が税抜経理方式を採用しているかを知ることができます。仮受消費税の勘定科目が見当たらない場合は、税込経理方式を採用している可能性が高いです。また、仕訳帳でも同様に、これらの情報を確認することが可能です。

これらの方法により、損益計算書の売上高が消費税込みか税抜きかを正確に見分けることができ、企業の真の財務状況をより適切に理解することが可能になります。これは、経営の意思決定や外部への報告における基本です。

税込経理方式によって消費税を損益計算書に表示する方法は変わる!

消費税の経理方式を税抜経理方式とするか、税込経理方式にするかは事業者の選択に委ねられています。税込経理方式とすると、決算のときに一括して納めるべき消費税額を計算することになるため、取引時の仕訳処理は簡単になります。一方で、税抜経理方式では、取引ごとに消費税額を計上することになるため、税込経理方式と比べた場合に仕訳処理の手間が少しだけ増えることになります。

税抜経理方式では、取引の本体価格と消費税を別々に計上します。この方式を採用すると、損益計算書上の収益や費用は消費税を除いた金額で表示されます。消費税は「仮払消費税」や「仮受消費税」として別の勘定科目で管理され、決算時に相殺されて実際に納付すべき消費税額が計算されます。この方法のメリットは、期中でも消費税額を除いて商品売買に伴う純粋な損益を把握できる点にあります。

一方、税込経理方式では、取引を消費税込みの金額で記帳します。損益計算書上の収益や費用はすべて税込価格で表示され、これにより仕訳処理がシンプルになります。しかし、損益の額は決算時まで明確にはなりません。

損益計算書と消費税についてのQ&A

最後に、損益計算書と消費税についてよくある質問をQ&A形式で答えていきます。

Q1. 損益計算書は税込み・税抜きどちらで作成すべき?

損益計算書を税込みか税抜きかで作成するかは、事業者が任意で選べます。選択は、経理方式ごとのメリットとデメリットを考慮して行うべきです。原則課税制度を利用する場合は「税抜経理方式」を、簡易課税制度を利用する場合は「税込経理方式」を採用するのが一般的です。また、免税事業者は税込経理方式しか採用できません。

Q2. 税抜経理方式と税込経理方式で利益が一致しないケースはある?

税抜経理方式と税込経理方式のどちらを採用した場合でも、最終的な利益額、消費税額も基本的には一致します。

Q3. 消費税は損益に影響しない?

税抜経理方式であれば消費税は損益に直接影響を与えません。一方、税込経理方式の場合、収益や費用を増加させ、決算時に租税公課が計上されることから、損益に直接影響します。

Q4. 損益計算書が税抜きか税込みか確認する方法は?

損益計算書が税抜きか税込みかを確認するには、個別注記表や法人事業概況説明書、総勘定元帳を確認します。これらの書類には、経理方式に関する情報が記載されており、売上高が税抜きか税込みか判断することができます。

Q5. 消費税は損金算入できる?

税抜経理方式の場合、消費税はそもそも費用として計上されていないため、損金にはなりません。一方で、税込経理方式の場合、決算時に租税公課が計上されるため、損金となります。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 税理士 宮川 真一

税理士 宮川 真一さま

税理士法人みらいサクセスパートナーズ 代表 岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上。 現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティング、税務対応を行っている。 また、事業会社の財務経理を担当し、会計・税務を軸にいくつかの会社の取締役・監査役にも従事。 【保有資格】 税理士、CFP®

税理士法人みらいサクセスパートナーズ