総合原価計算とは?個別原価計算との違いやメリット、計算の流れ
原価計算の方法は、大きく総合原価計算と個別原価計算の2種類に分けられます。特に、製品の大量生産を行う企業の経理部門にとって、総合原価計算の正確な理解は業務を遂行するうえで欠かせません。総合原価計算の基礎をしっかりと理解することで、効率的な原価管理が可能になります。
この記事では、総合原価計算と個別原価計算の違いやメリット、そして計算の流れについて解説します。
なお、原価そのものや原価管理、原価率などの詳細については以下の各記事をご参照ください。
経理プラス:原価管理とは?行う目的と現場の課題、実際に管理を行う際の流れ
経理プラス:知っておくべき原価の種類と原価計算の方法
経理プラス:原価計算の目的・必要性について!究極の原価計算活用法とは?
経理プラス:標準原価計算とは?メリット・デメリットや計算の流れ、よくある質問もご紹介
総合原価計算の基礎知識
原価計算と一口にいっても、総合原価計算と個別原価計算では、根本的な計算方法が異なります。ここでは総合原価計算の種類と適用される製造方法や計算方法について紹介します。
総合原価計算とは?
総合原価計算とは、1年間や1か月など、一定期間に発生した原価の合計額を生産数で割り、1個あたりの製品原価を割り出す計算手法です。
同じ種類の規格品を反復連続的に大量生産するビジネスモデルでは、一つひとつ個別に原価計算を行おうとすると膨大な時間がかかり現実的ではありません。総合原価計算は、同一規格の製品を大量生産する製造形態に適した原価計算です。
総合原価計算の種類
大量生産を行う工場では、複数の工程がある、規格品に複数のサイズがあるなど、製品条件によってさまざまです。そこで総合原価計算には、製造条件ごとに適した4つの種類があります。
単純総合原価計算
単純総合原価計算は、同じ製造ラインで1種類の製品を大量生産する際に用いられる原価計算手法です。単純総合原価計算では、製造品が1種類の同じ規格品であるという前提から、製品1つあたりにはすべて同額の製造原価がかかっているとみなします。そのため一製品当たりの原価の算出は、生産にかかった総製造原価を生産数で割るシンプルな計算式で求められます。
工程別総合原価計算
工程別総合原価計算は、同じ製造ラインで1種類の製品を大量生産するにあたり、2つ以上の作業工程を経て作られる場合の原価計算手法です。原価計算は、工程ごとに単純総合原価計算を繰り返します。
ただし、一つの工程しかない単純総合原価計算とは違い、工程別総合計算では、前工程で発生した完成品製造原価を「前工程費」として扱います。第二工程以降は、原価計算に前工程費が加算されていきます。工程ごとに原価計算を行うことで、どの工程に無駄があるかの把握が可能です。
組別総合原価計算
組別総合原価計算は、同じ製造ラインで2種類以上の製品を大量生産する際に用いられる原価計算手法です。組別総合原価計算では製品が2種類以上あるため、原価計算を行う際は製品の種類を「組」として分類し、組ごとに原価を集計、単純総合原価計算を行います。
等級別総合原価計算
等級別総合原価計算は、同じ製造ラインで作られる製品は1種類ですが、サイズや重さが異なる製品を大量生産する際に用いられます。等級別総合原価計算では、サイズや重さなどの製品の大小を「等級」として分類します。原価計算方法は、まず等級を考慮せず全体の原価を集計、単純総合原価計算を行い、総合原価を各等級製品に配分します。配分は、サイズや重さなどに基づいた原価の負担割合(等価係数)に応じて行います。
総合原価計算のメリット・デメリット
総合原価計算のメリット
総合原価計算は一定期間の製造原価をまとめて計算するため、製品を個々に原価計算する必要がありません。原価計算の効率化により原価計算の工数やかかる時間が削減され、人件費削減にもつながります。
総合原価計算のデメリット
総合原価計算は一定期間の製造原価をまとめて計算するため、期間が経過しないと正確な原価を把握できません。特に製品や工程の原価変動が激しい場合は、即時の原価情報の把握が困難になります。
総合原価計算と個別原価計算との違い
総合原価計算と個別原価計算の違いは以下の2つです。
- 生産方式
- 基準となる単位
どちらを選択するかは、主に生産方式によって決定することが一般的です。
なお、個別原価計算の詳細については以下の記事をご参照ください。
生産方式の違い
総合原価計算は、一定期間の製造原価をまとめて計算する方法で、注文を受ける前に見込みで製品を製造する大量生産方式で用いられます。一般的に、製造業や鉄鋼業、製紙業、製粉業などの大量生産を行う業種では、総合原価計算が用いられる傾向にあります。これは、一定期間の製造原価をまとめて計算することで、効率的な原価管理を実現するためです。
これに対して、個別原価計算は受注生産や多品種の少量生産を行う業種で用いられます。税理士などの士業、コンサルタント、システム開発などの業種では、個別原価計算が向いているでしょう。これらの業種は、受注生産や多品種少量生産を行うことが一般的であり、製品やプロジェクトごとに原価を正確に把握する必要があるためです。
基準となる単位の違い
総合原価計算では、一定の期間(例:1か月)に生じた原価を基に計算します。たとえば、既製服の製造業の総合原価計算では、1か月間に発生した全ての原材料費、労務費、諸経費などを合算して、その期間の総合的な原価を算出します。
一方、個別原価計算では、製品を受注するごとに「製造指図書」が発行され、それごとに生じた原価を集計し算出します。たとえば、ある家具メーカーがオーダーメイドのテーブルを製造する場合、そのテーブルの原材料費、労務費、諸経費などを製造指図書ごとに個別に計算して、製品個別の原価を算出します。
経理プラス:個別原価計算とは?総合原価計算との違いや必要な書類、計算の流れ
総合原価計算の計算方法
総合原価計算において基本となる単純総合原価計算の計算方法を例に解説します。単純総合原価計算は、他の総合原価計算の種類においても基本となる計算方法です。しっかり押さえていきましょう。
総合原価計算の計算式
総合原価計算では、製造原価を算出するために以下の計算式を使用します。
製造業では、投入した材料を加工して製品を作り出す生産形態が一般的です。そのため、総合原価計算では製品の製造費用を「直接材料費」と「加工費」の2つの原価要素に分類します。直接材料費は、製品に直接使用される材料費を指し、加工費は材料を加工するために必要な労務費と経費を指します。
総合原価計算の流れ
総合原価計算は、製品の原価を一定期間ごとに算出する方法です。ここでは、計算式における一定期間を1か月単位として総合原価計算の流れを解説します。
Step1. 当月製造費用を計算する
まず、1か月にかかった製造原価をすべて集計します。この合計額を「当月製造費用」と呼びます。たとえば、原価計算期間が2023年1月1日から1月31日で、かかった製造原価が10,000円であれば、当月製造費用は10,000円となります。
Step2. 製品1個あたりの製造原価を計算し、月末仕掛品原価を計算する
次に、当月製造費用を当月生産数量で割り、製品1個あたりの製造原価を算出します。たとえば、当月製造費用が10,000円で、当月生産数量が200個だった場合、製品1個あたりの製造原価は10,000円÷200で50円/個です。
月末に仕掛品がある場合は、月末仕掛品原価も計算します。月末仕掛品原価は、製造原価に月末仕掛品数量をかけて算出します。たとえば、製品1個あたりの製造原価が50円で月末の仕掛品数量が完成品換算数量で10個だった場合、月末仕掛品原価は50円×10個で500円です。
Step3. 完成品原価を計算する
次に、当月製造費用から月末仕掛品原価を差し引き、完成品原価を算出します。たとえば、当月製造費用が10,000円で月末仕掛品原価が500円だった場合、完成品原価は10,000円- 500円で9,500円です。
Step4. 完成品単位原価を計算する
最後に、完成品単位原価を計算します。完成品単位原価は、完成品原価を完成品の数量で割ることで算出できます。たとえば、完成品原価が9,500円で、当月の完成品数量が190個だった場合、完成品単位原価は9,500円÷190個で50円/個となります。
まとめ
総合原価計算は、製品の大量生産を行う企業において重要な原価計算です。総合原価計算と個別原価計算の違いやメリットを理解することで、効率的な原価管理が可能となります。
経理部門は、総合原価計算の計算方法をマスターし、原価管理の効率化に取り組むことが求められます。本記事を参考に、総合原価計算の理解を深めましょう。
総合原価計算に関するQ&A
自社のビジネス形態を考慮し、どの原価計算手法を選択するかの意志決定は、原価管理の効率化に取り組む上で非常に重要です。経理部門は、生産方式や製品の特性を考慮し、適切な原価計算方法を選択することで正確な原価情報を提供し、経営上の意思決定をサポートする役割を果たすことが求められます。
ここでは、総合原価計算を選択する際に生じる一般的な疑問に対する情報を提供します。
Q1. 総合原価計算と個別原価計算のどちらで原価計算を行ったら良い?
自社で採用している生産方式に応じて原価計算方法を選ぶことをおすすめします。一般的に、同一の製品を大量に生産する業種では、総合原価計算を選定すると良いでしょう。一方、個別の特殊な製品を扱う場合には個別原価計算が適しています。
Q2. 総合原価計算と個別原価計算はどちらか1つを選ぶ必要がある?
両方の原価計算方法を状況に応じて使い分けてもかまいません。たとえば、建売住宅と注文住宅を販売するハウスメーカーは、大量生産型の建売住宅は総合原価計算を用い、個別に受注する注文住宅は個別原価計算を用いるなどです。目的や必要性に応じて適切な方法を選択しましょう。
両方の原価計算方法を使い分けることで、より広範な情報を得ることができます。総合原価計算は全体的な経営分析やコスト管理に役立ちますし、個別原価計算は製品ごとの原価把握や特殊な製品の評価に役立ちます。
Q3. 総合原価計算を簡単に行えるシステムはある?
市販の原価計算システムには、原価計算機能が組み込まれており、総合原価計算を効率的かつ正確に行うことができます。システム導入により原価情報の一元管理が可能です。
楽楽販売は、自社の業務フローにあわせて自由にカスタマイズができるのが特徴です。総合原価計算だけでなく、プロジェクトごと、製品ごと、現場ごとの個別原価管理も対応できます。また導入後のサポートも手厚く、導入が初めての場合も簡単に使用できます。
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