資産除去債務の会計処理 原状回復費用の扱いと割引率の計算方法は
資産除去債務と聞いて、具体的に何のことか思いつく方は少ないと思います。資産除去債務は抽象的かつ会計的な概念なので難しい部分もあると思いますが、近年注目されているIFRS(国際会計基準)やUS-GAAP(米国会計基準)では以前から採用されている会計慣行です。
資産除去債務とは有形固定資産の除去に関する義務
「資産除去債務」とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう(企業会計基準第18号、以下基準という)と定義されています。
たとえば、定期借地権にかかる原状回復義務に関する資産がある場合、固定資産を使って費用計上して減価償却して終わり、というわけにはいきません。綺麗にして貸主に戻す必要があります。こういったときに、会計上は資産除去債務という勘定科目を使います。
つまり将来発生すると思われる資産の撤去や解体にかかる費用を見積もって、その見積額を現在の価値に換算した金額もってを資産除去債務勘定を使って計上します。反対側の相手の勘定科目は、該当除去にかかる有形固定資産の取得原価で処理します。資産と負債の両方を同時に計上するという特殊な会計処理を行うことも、特徴のひとつです。
資産除去債務の会計処理と割引率の計算方法
資産除去債務について少しイメージができたかと思いますが、会計処理はどのように行うのでしょうか。
会計処理を行うに当たっては、
- 資産除去債務を算定する
- 資産除去債務に対応する除去費用を資産除去債務として負債に計上した後、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える
というプロセスになります。
具体的な会計処理例を見ていきましょう。
前提条件
- 取得原価 20,000
- 耐用年数 5年
- 定額法
- 除去費用の見積額 600
- 割引率 2.0%
- 期首に取得(×1年4月1日)
- 5年後の期末に除去(×6年3月31日)
- 実際の除去費用 620
取得時の割引率の計算方法・初年度会計処理(×1年4月1日)
有形固定資産 | 20,543 | 現金預金 | 20,000 |
資産除去債務 | 543 |
資産除去債務は発生した時に、有形固定資産の除去に要する割引前将来キャッシュ・フローを見積もり、割引価値で計上します。この条件の場合、割引率が2%ですので、600/(1.02)5=543で計算されます。
割引率は無リスクの割引率、たとえば利付国債の流通利回りなどを用います。
期末の会計処理(×2年3月31日)
利息費用 | 11 | 資産除去債務 | 11 |
時の経過により資産除去債務が増加、543×2%=11
減価償却費 | 4,108 | 減価償却累計額 | 4,108 |
減価償却費の計上、20,543÷5年=4,108
除去時の会計処理(×6年3月31日)
利息費用 | 12 | 資産除去債務 | 12 |
時の経過により資産除去債務が増加、(543+11+11+11+12)×2%=12
減価償却費 | 4,111 | 減価償却累計額 | 4,111 |
減価償却費20,000÷5年+除去費用資産計上額543-4,108×4=4,111
減価償却累計額 | 20,543 | 有形固定資産 | 20,543 |
資産除去債務 | 600 | 現金預金 | 620 |
費用(履行差額) | 20 |
基本的な会計処理は以上となります。
資産除去債務の見積額に重要な変更が起こった時は、新たな会計処理が必要となりますが、この場合の会計処理については「資産除去債務に関する会計基準の適用指針(以下、適用指針という)」に設例が記載されています。
原状回復費用の会計処理
実務でよく見られる賃借建物に係る原状回復費用の処理については、建物等賃借契約に関連して敷金を支出している場合に、以下のような簡便的な処理が認められています。
前提条件
- A社はB社との間で、Cビルの賃貸借契約を締結しており、A社はB社に敷金5,000を支払った
- A社の同種の賃借建物等への平均的な入居期間は5年と見積もり
賃借時初年度の会計処理
敷金 | 5,000 | 現金預金 | 5,000 |
賃借年度の期末の会計処理
費用(敷金の償却) | 200 | 敷金 | 200 |
敷金5,000のうち、1,000について原状回復費用に充てられるため返還が見込めないと認められたことから、5年で費用配分することとした。
退去時の会計処理
未収金 | 3,800 | 敷金 | 4,000 |
費用(履行差額) | 1,200 |
5年後の退去時、実際には1,200について原状回復費用に充てられた。
また、会計処理を行った際の損益計算書上の開示は、利息費用(時の経過による資産除去債務の調整額)は、対象となる有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて開示、履行差額(資産除去債務の履行時に認識される差額)は、対象となる有形固定資産の除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて開示されます(基準 54~58)。
つまり、資産除去債務の計上の対象となった有形固定資産の減価償却費が、製造費用に計上されるものであれば、利息費用も履行差額も製造費用に、販売費および一般管理費に計上されるものであれば、利息費用も履行差額も販売費および一般管理費に計上されることになります。
上場会社は注記すべき事項も細かく規定されていますので、ご留意ください。
資産除去債務を適用するにあたっての注意点
資産除去債務に係る費用は原則的に損金不算入
資産除去債務に係る費用配分額、利息費用は基本的には損金不算入となります。したがって、履行時までは税効果を考える必要がありますので注意しましょう。
IFRS(国際財務報告基準)と日本の会計基準との相違
資産除去債務の会計基準が公表された背景には、IFRS(国際財務報告基準)と日本の会計基準との差異を縮小することを目的とする両会計基準とのコンバージェンス作業の一環としての側面があります。しかし、IFRSと日本の会計基準には未だに以下に代表される差異が存在します。(2016年時点)
日本基準 | IFRS |
|
範囲 | 法律または契約上の義務及びそれに準ずるもの | 法定債務及び推定的債務 |
資産除去債務の見直し | 割引前キャッシュ・フローに重要な変更が起こったとき | 毎期最善の見直しを行う |
使用する割引率 | 無リスクの割引率 | 貨幣の時間的価値、負債特有のリスクを反映 |
開示 | 該当資産の減価償却費と同じ区分で開示 | 財務費用として開示 |
2018年度から新しいIFRSの収益認識が適応され、日本基準でもその新しい収益認識が反映されるようなりました。今後もIFRSに変更がでる可能性があるので、こまめに内容を確認して資産除去債務のやり方に影響がないかチェックしておきましょう。
(参考)経理プラス:IFRS(国際会計基準・国際財務報告基準)とは?導入のポイントとメリット・デメリットを解説!
実際に適用する場合には?
資産除去債務に関しては、「企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準」及び「企業会計基準適用指針第21号 資産除去債務に関する会計基準の適用指針」が公表されています。実際に適用の際には上記の基準を十分に熟読し、必要に応じて専門家の指示を仰ぐとよいでしょう。
(参考)企業会計基準委員会 「資産除去債務に関する会計基準」及び「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」の公表
まとめ
資産除去債務について、イメージすることができましたでしょうか。
資産除去債務の費用配分に係る除去費用は、先に述べた通り、損金算入できないので、実際には上場会社やその子会社、関連会社等以外の会社は適用していない会社が多いと思われます。しかしながら、もし、資産除去債務を適用すれば、業種によっては決算に与える影響額も多額になりますし、固定資産の管理の煩わしさも伴うということは、頭の片隅に留めておいてもよいかもしれません。
経理プラス:資産除去債務とは何か?概要と仕訳の実例を紹介
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。