期首商品棚卸高とは?仕訳例や消費税区分、期末商品棚卸高との関係を解説

期首商品棚卸高とは?仕訳例や消費税区分、期末商品棚卸高との関係を解説

会計期間の始まりの時点で保有する商品在庫である「期首商品棚卸高」は、主に決算時である損益計算書に登場する勘定科目です。そのため、定義や計算方法が不明確で仕訳に困ってしまう経理担当者の方もいるのではないでしょうか。一方、期首商品棚卸高について正しく理解し、処理できるようになれば、計上漏れの防止や会計処理の円滑化などにつながります。

そこで今回は、期首商品棚卸高の仕訳例のほか、切っても切れない関係である期末商品棚卸高、原価計算、消費税の取り扱いについて解説します。

期首商品棚卸高とは

期首商品棚卸高とは、期首の時点での商品の在庫のことです。つまり、期首商品棚卸高となる在庫は、前期に売れ残った在庫ともいえます。これらの在庫は貸借対照表には「商品」という勘定科目で示され、棚卸資産として前期末から繰り越されます。その前期の期末商品棚卸高にあたるのが翌期首の「期首商品棚卸高」です。

つまり、期首商品棚卸高は前期に在庫として残った商品や製品のことであり、期を跨いだ「置き換え」が主な処理内容となることを覚えておきましょう。

期首商品棚卸高

期首商品棚卸高を仕訳するタイミングは決算時です。期首とは会計期間の最初の日(時点)であり、一般的には4月1日に設定している企業が多いです。上記の図のように会計期間の最後の日(時点)は、3月31日が期末に設定されます。決算における「期末商品棚卸高を翌期に繰り越し、期首商品棚卸高に振り替える作業」をイメージしながら、上記の図を確認してみてください。

期首商品棚卸高の仕訳例

期首商品棚卸高に関連する仕訳は決算期に実施されます。具体的な計算例を以下で紹介します。

例:決算期に、前期から繰り越された期首在庫100万円を仕入勘定へ振り替えた。

借方金額貸方金額
仕入1,000,000商品1,000,000

期首商品棚卸高の振替仕訳は在庫(商品)という資産が減少し、仕入を増加させます。なお、当期中に仕入を行った場合の仕訳は下記の通りです。

例:当期に商品を500万円で仕入れた。

借方金額貸方金額
仕入5,000,000買掛金5,000,000

期中は「商品」という勘定科目を使わず仕入を使用。期首商品を仕入に振り替えて、次に解説する期末商品を差し引くことで売上原価を計算します。

期首商品棚卸高と期末商品棚卸高との関係

期末商品棚卸高も、期首商品棚卸高と同じく損益計算書に登場する勘定科目です。前述の通り、翌期の期首商品棚卸高に置き換える前の勘定科目でその内容は原則一致します。期末商品棚卸高は年度内に売り切れなかった「在庫」の金額を示します。その金額がそのまま期を跨ぐことで、翌期の期首の在庫の金額である期首商品棚卸高となるのです。以下で決算の仕訳例を確認してみましょう。

例:決算期に、期末の在庫200万円を振り替えた。

借方金額貸方金額
商品2,000,000仕入2,000,000

また、期末商品棚卸高は翌期の期首商品棚卸高となり、金額は原則一致する点も覚えておきましょう。ただ、現実的には会計期間中の仕入や返品の記帳ミスや在庫紛失などが原因で、最終的に差額が生じて不一致となるケースも珍しくありません。そのため、後述する売上原価を正確に計算して正しい経営状況の把握につなげるためにも、年度末などの会計期間の区切りで実地棚卸を行う必要があるのです。実地棚卸で差異があった場合の処理については、後述しているので確認してください。

また、原価計算については、下記記事で詳しく解説しています。

経理プラス:原価計算とは?目的・種類・計算方法・期間・分析の流れをわかりやすく解説

期首商品棚卸高と売上原価の関係

前述した通り、期首商品棚卸高および期末棚卸高について理解を深めておくべき大きな理由の一つが「売上原価の計算式に必要な勘定科目である」ことが挙げられます。売上原価は損益計算書、期末商品棚卸高は貸借対照表の商品に記載されるほか、企業の重要な経営指標になる「売上総利益」の計算(売上総利益=売上高-売上原価)にも必要な勘定科目です。具体的には、商品(在庫)という資産が増え、仕入を減少させます。期首在庫、当期仕入、期末在庫より当期の売上原価を計算します。

売上原価(仕入原価)= 期首商品棚卸高 + 当期仕入高 - 期末商品棚卸高

これまでの例をまとめて確認し、売上原価まで計算してみましょう。

1:当期に商品を500万円で仕入れた。

借方金額貸方金額
仕入5,000,000買掛金5,000,000

2:決算期に、期末の在庫200万円を振り替えた。

借方金額貸方金額
商品2,000,000仕入2,000,000

3:決算期に、前期から繰り越された期首在庫100万円を仕入勘定へ振り替えた。

借方金額貸方金額
仕入1,000,000商品1,000,000

上記の流れで100万円(期首)+ 500万円(当期仕入)- 200万円(期末)より、売上原価である400万円を算出することができました。

期首商品棚卸高と決算書の関係

期首商品棚卸高は、損益計算書だけでなく前期の貸借対照表にも登場します。それぞれの意味について解説します。

Blps

損益計算書との関係

期首商品棚卸高は売上原価の項目内に表示され、損益計算書は売上高から売上原価を差し引き、売上総利益(粗利)を算出します。

貸借対照表の場合

貸借対照表の「資産の部」内の「流動資産」の中の「商品」に関連します。貸借対照表の「商品」には期末商品棚卸高が表示され、その数値がそのまま翌期の期首商品棚卸高となります。

期末商品棚卸高と実地棚卸に差異があったら

期末商品棚卸高は実地棚卸を行ったうえで、帳簿と在庫が一致しているか確認しなければなりません。そのとき、差異が生じることも多く、その処理を求められるケースがあります。帳簿と在庫に差異が生じる理由も踏まえて紹介します。

実地棚卸のよくある間違い例

継続記録法は帳簿上で在庫数量を把握できますが、棚卸計算法と同様に実地棚卸を実施します。その際、帳簿在庫と実地棚卸で差異が生じることがあるでしょう。差異の発生要因には、大きく分けて在庫管理上のミス実地棚卸のカウントミスがあります。カウントミスは再カウントすることで確認しましょう。在庫管理上のミスは複数あり得ますが、代表的な例は下記の通りです。

商品名、コードの間違い

入庫や出庫の際に、間違った商品名やコードを入力することによって発生します。ある商品がプラスで別の商品が同数のマイナスである場合は、入り繰りが発生していないか確認を行いましょう。

入出庫の入力漏れ

入出庫時に入力が漏れている場合に発生します。帳簿よりも実際の在庫数量が多ければ入庫の入力漏れ、反対であれば出庫の入力漏れの可能性が高いでしょう。納品書や請求書の控えと照らし合わせて確認します。

帳簿反映への時間差

現物の払い出しは行ったものの、帳簿や在庫システムへの入力がまだの場合には帳簿と現物の在庫が合わなくなります。

盗難、横領

差異が生じた原因が特定できない場合は、盗難や横領の可能性を疑います。施錠の徹底、監視カメラなどの対策が必要でしょう。

差異を修正する方法

棚卸減耗費で修正する方法

継続的に記録された帳簿残高と、実地棚卸により把握した在庫残高に差が生じた場合は、帳簿残高を実際の残高に合わせることが必要です。この修正する差額のことを、棚卸減耗費と呼びます。なお、棚卸減耗費の計算方法は下記の通りです。

棚卸減耗費 = (帳簿棚卸数量 - 実地棚卸在庫数量)× 在庫単価

例えば帳簿数量が50個、実地棚卸数量が40個、単価100円の場合は(50-40)× 100となり、棚卸減耗費は1,000円となります。

仕訳は棚卸減耗費(費用)を計上し、商品(資産)を減少させます。

借方金額貸方金額
棚卸減耗費1,000商品1,000

通常は、税務上も損金として認められます。ただし、棚卸減耗費が多額に発生し、その原因が特定できない場合などは、税務調査等で否認されることがありますので注意しましょう。

商品評価損で修正する方法

期首商品棚卸高や期末商品棚卸高は、取得価額で計上することが原則です。しかし、商品の販売価額(時価、正味売却価額)が帳簿価額よりも下回っている場合は、時価により評価することがあります。商品の取得価額よりも販売価額の方が下回るケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 季節商品の売れ残り、流行遅れ
  • 長期保管等による商品の品質劣化、破損
  • 過剰生産による需給バランスの変化 など

このような価値の減少が発生した場合は、期末に商品評価損の勘定を用いて費用計上を行います。

借方金額貸方金額
商品評価損3,000商品3,000

期首商品棚卸高の消費税区分について

商品の仕入に係る消費税は、仕入れた会計年度に計上し、当期の売上に係る消費税から控除します。これを「仕入税額控除」といいます。消費税法上、期首商品や期末商品といった繰越商品の振替による費用は不課税取引となり、消費税の対象外です。消費税は、仕入れた会計年度で仕入税額控除が行われていると理解しましょう。

ただし、消費税の納税を免除されていた免税事業者について、基準期間の売上高が1,000万円を超えるなどして課税事業者になった場合は、その会計期間の期首商品棚卸高は消費税の対象とみなされ、仕入税額控除が可能になります。ただし、この適用を受けるためには、国税庁が示す以下の書類を一定期間保管しなければなりません。

この調整措置の適用を受けるためには、その対象となる棚卸資産の明細を記録した書類をその作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存しなければなりません。

引用:国税庁 No.6491免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整

簡易課税制度は、一般的な「原則課税」と比較すると簡単に仕入にかかる消費税額を算出できる制度ですが棚卸資産に係る仕入控除額の調整は行いません。というのも、以下のような計算式になるからです。

■簡易課税の計算式

当期の支払消費税 =売上(収入)に掛かる受取消費税 - 売上(収入)に掛かる受取消費税 × みなし仕入率

ちなみに簡易課税制度の対象者は基準期間の課税売上高が5,000万円以下かつ簡易課税制度選択届出書を提出している事業者です。基準期間は、個人事業者の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度となります。

会計業務を効率化するには

期首商品棚卸高、期末商品棚卸高を迅速に算出するには、日々の取引を正しく管理してなるべく在庫に差異が生じない環境をつくることが必要です。そのためには在庫管理に関連する作業だけでなく、会計ソフトや経費精算システムを導入するなど業務リソースを圧迫する補助簿の作成といった細かな会計業務にかける時間を圧縮することも有効です。

まとめ

期首商品棚卸高について、仕訳例や実地棚卸との関連などを解説しました。期首商品棚卸高は、損益計算書の売上原価を算出するために必要な項目です。在庫と原価の関係を理解し、正しく処理できるようになりましょう。

期首商品棚卸高に関するQ&A

期首商品棚卸に関するよくあるQ&Aを5つ紹介します。

Q1.期首と当期の違いは?

決算日を3月31日とした場合は、期首は4月1日となり、期末日は3月31日となります。また、損益計算書・貸借対照表を作成するための会計期間を「当期」という。

Q2.期末商品棚卸高の求め方は?

期首商品棚卸高と当期商品仕入高の合計から当期に売り上げた商品の原価を差し引いて求めます。

Q3.棚卸資産はどこを見る?

貸借対照表の「資産の部」の「流動資産」に記載されます。

Q4.商品評価益を計上しないのはなぜ?

商品を販売していない段階では未実現利益となってしまうため、販売されていない在庫の状態でこのような未実現利益を計上しないようにするためです。

Q5.なぜ在庫に税金がかかる?

しばしば勘違いされがちですが、在庫(棚卸資産)自体に税金がかかるわけではありません。実際には在庫が増えると利益と見なされるため、税金が課されることとなります。これは、在庫はいずれ現金化される「換金資産」であり、現預金と同じ扱いを受けているからです。そのため、現預金と同じように在庫が増えた分だけ課税対象となります。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 公認会計士 梶本 卓哉

Kajimototakuya

税務署法人課税部門(税務大学校首席卒業)、大手監査法人や大手投資銀行勤務等を経て公認会計士・税理士事務所開設。税務のみならず会計監査やIPO(新規株式公開)実務に強みを有する。