かんたん解説!減資の手続きを体系的に理解しよう
会社法では、債権者保護・株主保護を目的として、減資に関する手続きが定められています。たとえば、資本の流出を伴う減資については、債権者の利益を害する可能性があるため厳格な手続きが定められており、一方で資本の流出を伴わない減資については、債権者の利益を害する可能性が低いため簡便的な手続きが定められています。本稿では、減資の種類別の手続きについて解説をしたいと思います。
そもそも減資とは・・・
減資の種類別手続きに入る前に、減資とは何かを確認しておきましょう。減資とは、株式会社と有限会社が、法の手続きに従い資本金の額を減少させることです(会社法第447条)。資本金の額は、貸借対照法の一項目で会社が配当等で株主に分配できる金額(分配可能額)を計算するための計数(第461条2項)であり、株主から拠出された金額の総額ではありません。このため、資本金の額を減少させることは、分配可能額の増加につながり、債権者にとっては重大な関心事になります。他方で、株主にも重大な影響が生じます。会社法は、第2編第5章第3節第1目資本金の減少等(第447~449条)を定めています。最初に、資本の流出を伴う減資を、次に資本の流出を伴わない減資を解説することにします。
資本の流出を伴う減資
これは、分配可能額を増加させる資本金の額の減少です。では、どのようにすれば、これを行えるでしょうか。株主総会特別決議→債権者異議申立て手続き→登記というのが、大きな流れです。
まずは、株主総会の決議が必要です(第447条1項)。株主総会の決議は、普通決議(第309条1項)と特別決議(第309条2項)があります。他方で、株主総会は決算に伴い行われる定時株主総会と、その他の時期に行われる臨時総会があります。資本の流出を伴う減資では、定時または臨時株主総会での特別決議(第309条2項9号)が求められます。そこでの決議事項は、次の3つです(第447条1項)。
- 減少する資本金等の額
- 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
- 資本金の額の減少が効力を生ずる日
なお、株主総会に先立ち、取締役会を招集し、取締役会で株主総会の開催と議案を定め、招集手続きを行う必要がありますのでご留意ください。
次に、債権者に異議を申立てる機会を与えるため、官報により公告するとともに知れたる債権者に催告を行います(第449条2項)。公告・催告で次の事項を開示します(第449条2項)。
- 資本金等の額の減少の内容
- 会社の計算書類に関する事項(会社計算規則152条に詳細)
- 債権者が一定の期間内(1カ月以上)に異議を述べることができる旨
但し、官報のほか、定款で(ア)時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法か、(イ)電子公告を公告の方法として定めていて、これによりするときは必要ありません(第449条3項)。
債権者がこの期間内に異議申立をしないときは、承認されたとみなされます(第449条3項)。しかし、異議申立てがあるときは、弁済するか、相当の担保を提供するか、または信託会社等に相当の財産を信託する必要があります(第449条5項)。この弁済などの行為は、その債権者を害するおそれがないときは必要ありません(第449条5項但し書き)。資本金の額の減少の効力は、債権者異議申立ての手続きが終了するまで発しません(第449条6項)。このため、上記3の日前であれば、いつでも完了の日を変更できます(第449条7項)。
最後に登記を行います。この登記は、資本金の額の減少の効力発生の日から2週間以内に行い、次の書類(商業登記法 第46、70条)が必要です。
- 株主総会議事録などの資本金の額の減少の決議をしたことを証する書面
- 公告がされた官報と催告書の写し等の公告及び催告(又は定款の定める公告の方法の公告)をしたことを証する書面
- 異議を述べた債権者があるときは、弁済などを行ったことしたことを証する書面又は資本の減少を行っても当該債権者を害するおそれがないことを証する書面
資本の流出を伴わない減資
これは、貸借対照表の総資産から総負債を差引いた純資産の額に変動を来さないものです。いわば、純資産内での科目振替といっても過言ではないでしょう。では、何のために行うのか。答えは、欠損の補填です。この欠損の額は、ゼロまたはゼロから分配可能額を差し引いた額のいずれか高い額とされています(会社法施行規則第68条、会社法第309条2項9号ロ)。この分配可能額は、少々複雑な計算が必要になりますが、大まかにいえば純資産の額から資本金及び準備金の額の合計額を差引いた金額に、決算後分配可能額に生じた増減を加減した金額になります(第446条、461条2項)。大きな赤字を抱える会社の場合、分配可能額はマイナスの金額になります。従ってゼロからマイナス金額を差引いた金額が欠損の額ということになります。この金額を超えない額の資本金の額を減らし欠損の補填を行う行為は、資本の流出を伴いません。このため、前述の資本の流出を伴う減資に求められる手続きの一部が簡素化されています。それは、定時株主総会の普通決議で良いという点です(第309条2項9号のイとロのいずれにも該当する場合)。 但し、臨時株主総会でこれを行う場合には、特別決議が必要となります。
欠損補填を目的とする資本金の額の減少であっても、将来の配当可能額を増加させるため債権者保護は必要になります。
登記には、株主総会の普通決議によった場合のみですが、欠損が存在することを証する書面が追加で必要になります。
まとめ
減資は、欠損の補填、税務上のメリット享受、自己株式の消却などのため行われます。会社法で資本の額の減少を定める条文の数は、決して多くはありません。しかし、これを実行するとなると、株主や債権者が多いほど実務上の困難を伴うでしょう。上記で解説したように、減資は会社経営陣の意思表示に始まりますが、これを為すには株主と債権者の賛同が不可欠です。実務では、顧客への根回しも必要となるでしょう。ここに示した会社法ほかの条文を一つ一つ熟読し、会社法専門書を読みその背景を理解し、更には弁護士に相談することも事前準備として必要です。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。