非上場株式の評価と経理担当者が気をつけるべきポイント

非上場株式の評価と経理担当者が気をつけるべきポイント

非上場株式は上場株式と異なり、市場価格が存在しません。このため、株式の評価に関しては様々な考え方が存在し、混乱を招きやすくなっています。会社の経理における非上場株式の評価にスポットをあてて、経理担当者が注意すべき会計上の考え方、税法上の考え方について説明していきます。

非上場株式とは?

非上場株式とは、証券取引所に上場していない株式の総称であり、取引相場のない株式となり、未公開株などとも呼ばれます。日本の株式会社のうち、株式を公開している会社は1%未満といわれており、ほとんどが非上場会社になります。非上場株式は取引所の相場がなく、評価に客観性が得られにくく、そのため、以前からたくさんの論点が存在します。

非上場株式を相続や贈与された場合の評価の問題(相続税法)、取得した非上場株式の保有中の評価の問題、特に当該非上場株式の経営状態が悪化して評価損を計上する場合などは、会計上、税務上で解釈が分かれる場合もあり、経理担当者を悩ませることもあります。
ここでは、非上場株式の保有中の評価の問題を、会計上の論点、税務上の論点にわけて、検討していきたいと思います。

会計上の非上場株式の評価について

会計上の非上場株式の評価については、金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号、以下金融商品会計という)で論じられています。

金融商品会計において、非上場株式の評価は有価証券の減損の可否として述べられていますので、金融商品会計における有価証券の評価の全体像について簡単に説明します。

金融商品会計では、まず、有価証券を保有目的別に、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社及び関連会社株式及びその他の有価証券に分類します。

売買目的有価証券は、取引所の相場がある有価証券で常に時価評価されますし、満期保有目的の債券は債券ですので、非上場株式には該当しません。保有目的の分類のうち、子会社及び関連会社株式及びその他の有価証券が非上場株式に関連する部分になります。子会社及び関連会社株式及びその他の有価証券でも時価のある有価証券と時価のない有価証券で、評価方法をわけていますが、非上場ですので、時価のない有価証券となります。つまり、金融商品会計の枠組みの中では、保有目的が子会社及び関連会社株式及びその他の有価証券で時価なし有価証券が非上場株式の評価に関連する部分となります。

時価のない有価証券の減損については、「発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下した時は相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理する」と記載されています。実質価額の著しい下落とは、簿価と実質価額を比較して、50%以上下落している場合は、著しい下落と考えますが言葉だけではわかりにくいと思いますので、具体的数値例を示します。

基本要件

当社はA社の株式の10%を保有しており、帳簿上の簿価は200
A社は近年業績が悪化しており、当期の純資産は500

<実質価額の計算>
A社の純資産500×10%(当社の保有分)=50
よって実質価額は50、一方当社の帳簿上の簿価は200

この場合、実質価額が50%以上下落していますので、著しい下落にあたりますので、回復可能性がなければ減損処理することになり、減損処理を行った場合の仕訳は以下の通りとなります。

有価証券評価損150有価証券150

時価のない有価証券を減損処理する場合は、評価差額(資本勘定)を用いるのではなく、損益計算書上で評価損を計上することに注意しましょう。

回復可能性の判定

時価のない株式の実質価額が上記のように著しく下落していたとしても、「回復可能性が十分な証拠により裏付けられる」場合は、減損処理をする必要はありません。

回復可能性があると判断するには、将来の事業計画を入手し、その事業計画が合理的に実行可能で認められる、5年以内に回復可能である、毎期回復可能性について判定するなどの処理が必要となります。業績回復が計画通り進まなかった場合には、再度減損処理について検討しなければなりません。回復可能性があると判断する場合には、事業計画を入手する必要がありますので、実務的には投資先との関係性がかなり強固であるときには行われますが、関係性が希薄である場合は、実質価額を算定し、回復可能性を検討することなく減損処理してしまうことも多いと思われます。

法人税法上の非上場株式の評価について

会計上の金融商品会計での枠組みでの非上場株式の評価は、回復可能性について検討しなければ、機械的に実質価額を計算するのみで単純であるように感じます。ただし、会計上で計上した有価証券評価損が税務上損金算入できる場合とできない場合があるので、問題が生じます。

法人税法上、有価証券の評価損が計上できるとは、以下の事実が生じた場合をいいます。

  1. 上場有価証券等で企業支配株式以外のものについて、その価額が著しく低下したこと
  2. 上記1以外の有価証券についてその有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したことにより、その価額が帳簿価額を下回ることとなったこと
  3. 上記2に準ずる特別の事実

上記のうち、非上場株式の評価について言及する2の有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したかどうかについては、法人税基本通達9-1-9(上場有価証券以外の発行法人の資産状態の判定)に述べられています。 (1)当該有価証券を取得して相当の期間を経過した後に当該法人に次に掲げる事実が生じたこと

  • 会社法の規定による特別清算開始の命令があったこと
  • 破産法の規定による破産手続開始の決定があったこと
  • 民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったこと
  • 会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例に関する法律の規定による更生手続開始決定があったこと

(2)当該事業年度終了日の日における当該有価証券の発行法人の1株あたり又は1口当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%を下回ることとなったこと

法人税基本通達9-1-9(上場有価証券以外の発行法人の資産状態の判定)の(1)は客観的事実がみえやすいので、有価証券評価損の損金算入において、会計上との差異は考えにくいと思われます。しかしながら、(2)の場合は、会計上の実質価額の50%超下落とおおむねの整合性がある一方、法人税基本通達9-1-9(上場有価証券以外の発行法人の資産状態の判定)では、回復可能性が認められないものをいうという記載がされています。回復可能性が認められないというのは、回復可能性について具体的に検討することが税務上は要求されていると考えられるようです。

実際に、非上場株式の評価損を特別損失として計上していた上場会社が、当該評価損を損金算入要件を満たすとして、税務上も処理していたが、税務当局がこの処理を認めず、国家賠償請求訴訟を行ったが、納税者が敗訴したという事例も存在するようです。この事例の場合は、納税者が回復可能性が認められないと判断をおこなったという根拠がないという理由だったようです。

会計上、減損処理した非上場株式の評価損を税務上損金経理するかについては、顧問税理士とよく相談する必要がありそうですね。

まとめ

非上場株式の評価についてご理解いただけましたでしょうか。
上記に述べた通り、非上場株式の評価損を損金経理する際には、十分検討する必要があると考えられますので、よく留意しましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。