原価率とは?計算方法と業種別の目安、抑える方法、高くなる原因を解説

原価率とは?計算方法と業種別の目安、抑える方法、高くなる原因を解説

企業にとって、収益性の向上と利益率の最大化は経営の根幹を成す重要課題です。特に飲食店、小売業、製造業では、原価管理と効率的な価格設定が事業の成功を左右する重要な指標となります。

現状、多くの企業が原価率の正確な算出に苦慮し、戦略的な収益計画の立案に困難を抱えています。食材費や人件費の高騰、仕入価格の変動、非効率的な在庫管理、そして廃棄ロスなどが、企業の粗利に甚大な影響を及ぼしています。

本記事では、原価率の基本的な考え方から、業種別の具体的な原価率の目安、詳細な計算方法、原価率が上昇する要因と効果的な抑制戦略まで、経営判断に不可欠な基礎知識を解説します。

原価率とは

原価率とは、売上高に占める原価の割合(%)を示す経営指標であり、企業の競争力強化や利益率の向上に大きく影響します。一般的に、原価率が低いほど収益性が高くなるため、重要な指標として捉えられています。ただし、原価率を下げることだけを目的とせず、売上高とのバランスを考慮した適切な価格設定と、顧客満足度の維持も重要です。

売上高は、商品やサービスの販売によって得られた金額であり、業界による定義の差はほぼなく、比較的イメージしやすい概念です。一方、売上原価は販売された商品やサービスの仕入や製造にかかった費用を指し、商品が販売されたタイミングで計上されます。製造業の場合、製造活動によって発生した費用を指し、販売業の場合は仕入による費用を指します。

注意すべき点として、販売費や管理部門の一般管理費、借入金の支払利息といった費用は売上原価に含まれません。この点を明確に理解することが、正確な原価率の算出や効果的な原価管理につながります。

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原価率の計算が重要な理由

ここでは、原価率の計算が重要である理由を解説します。

利益を管理しやすくなるため

原価率を計算することで、各製品やサービスの利益率を把握することができます。これにより、どの製品やサービスが高い利益を生むのか、または低い利益にとどまるのかが明確になり、利益管理が容易になります。

原価が適正かどうかを確認できるため

原価率は、業界や製品・サービスの種類によって大まかな目安が存在します。原価率を計算することで、実際の原価が目安と比較して適正であるかどうかを確認することが可能です。企業は自社の原価を必要に応じて見直すことができます。

コスト削減につながるため

原価率が高い場合には、その原因を分析することが重要です。分析を通じて、適切なコスト削減案を起案できるようになります。例えば、仕入コストの削減や無駄な間接コストの削減を行うことで、企業の収益性を向上させることができます。

このように、原価率の計算は、企業の経営戦略に直接影響を与えるため、正確に理解することが重要です。

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原価率の計算方法

原価率の計算式は下記のとおりです。

原価率(%) = 売上原価 ÷ 売上高 × 100

損益計算書の一番上に記載される売上高と、二番目に記載される売上原価の数字を使って計算します。原価率と類似する指標に「売上高総利益率」(%)がありますが、売上総利益(粗利)は売上高から売上原価を差し引いて計算し、この利益が売上高に占める割合を表すのが売上高総利益率です。こちらは利益が占める割合なので高い方が良く、原価率と合算すると100%になります。

売上高総利益率 + 原価率 = 100%

<原価率の計算の例>

原価率の具体的な計算方法を、わかりやすい例で解説します。

  • 製品1つあたりの売上原価が300円
  • 製品1つあたりの販売価格が1,000円
  • 販売個数が1つ

この場合、原価率は次のように計算されます。

計算式: (売上原価300円 ÷ 売上1,000円) × 100 = 30%

原価率は30%になります。製品の売上原価が販売価格の30%を占めていることを示しています。

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【業界別】原価率の目安

中小企業庁の統計調査によると、日本の全企業の平均原価率は74.56%となっています。業界によって差があり、各業界別の平均値は下記のとおりです。

業界売上高
(単位:百万円)
売上原価
(単位:百万円)
売上原価率
建設業85,664,62365,220,28076.13%
製造業137,847,830109,266,05479.27%
情報通信業13,862,5557,264,44252.40%
運輸業,郵便業29,525,73722,591,31876.51%
卸売業170,339,381144,576,36684.88%
小売業81,994,38857,050,24269.58%
不動産業,物品賃貸業40,015,25321,472,16553.66%
学術研究,専門・技術サービス業14,061,8836,070,42943.17%
宿泊業,飲食サービス業13,824,1995,070,91636.68%
生活関連サービス業,娯楽業20,414,27711,977,78158.67%
サービス業(他に分類されないもの)23,050,45813,446,50858.34%

上記の表は個人事業も含むため、傾向は同じであるものの、実数には若干の差異があることに留意してください。

また、売上原価に人件費が含まれる製造業などの業界では、売上原価率が高くなる傾向があります。一方、売上原価が主に仕入費用で構成される小売業やサービス業では、原価率が低くなる傾向があります。一般的に、飲食業の原価率は30%が目安とされています。飲食業の原価は主に材料費であるため、食材コストの3倍以上の価格を設定しないと、家賃や人件費をカバーし、十分な利益を上げることが難しいとされています。

一方で、意図的に原価率を40%に設定し、食材の質を向上させることで差別化を図る飲食店も存在します。これらの店舗は、居抜き物件を利用して初期費用を抑えたり、時間制限を設けて客の回転率を上げたりすることで、原価率40%の繁盛店を実現しています。業界の平均値を一つの指標としながら、自社の戦略と原価率を考慮することが重要です。

さらに、従業員の規模によっても原価率には一定の傾向が見られ、小規模な企業ほど原価率は低い傾向があります。

企業の人数規模売上高売上原価原価率
5人以下96,399,94563,871,21866.26
6~20人114,603,93282,482,59071.97
21~50人106,622,18280,139,15475.16
51人以上291,189,611227,461,73478.11
個人企業21,784,91410,051,80446.14

出典:中小企業庁 「中小企業実態基本調査 令和5年確報(令和4年度決算実績)」

原価率が高くなる主な原因

原価率が高い原因としては、分子である売上原価が高すぎるか、分母である売上高が低すぎるかの2パターンが考えられます。景気などの外部要因が大きいため、昨年と比較して原価率が増加した場合でも、一概に悪いとは言えません。しかし、同業他社や業界平均と比較して劣位であれば、原因の分析が必要です。

このような状況下では、適切な在庫管理や価格設定、原価管理が求められます。原価率を正確に算出し、競争力を維持するための戦略を立てることが大切です。具体的に、原価率が高い原因として考えられる要因を解説します。

販売価格の過剰な引き下げ

激しい競争の中で安易な値下げに走ると、利益率は急激に低下してしまいます。値下げは差別化の有力な手段ですが、一度下げると元に戻すことが難しく、価格競争に巻き込まれる恐れがあります。顧客の価値を理解し、戦略的な価格設定を行うことが収益性維持の鍵です。

仕入価格が他社よりも劣位

仕入先を1社のみに依存したり、仕入規模が小さかったりすると、競合他社よりも仕入価格が高くなり、原価率の上昇を招きます。競争力のあるコスト構造を実現するためには、複数の仕入先との交渉が不可欠です。

ロス率が他社よりも劣位

ロス率は、総売上高に対する廃棄・在庫ロスの割合を指します。計算式は、(廃棄額 + 不良在庫額) ÷ 総売上高 × 100で、低い方が経営効率は良いとされます。

製造業では機械の老朽化、飲食業では従業員の技能低下、販売業では長期滞留在庫による不良品化などによってロス率が上がり、原価率の悪化につながるケースがあります。工場の製造実力が低下してしまうと、ミスを見越して多めに材料を仕入れたり生産したりするので、これらも原価率の悪化要因となるでしょう。

原価率の低い商品の売上の少なさ

原価率が低い商品が売れない場合、全体の原価率が高くなりやすい状況です。この場合、商品ポートフォリオの戦略的な見直しが必要になります。

オーバーポーションによるロス

飲食業特有の原価率高騰要因として、オーバーポーションがあります。オーバーポーションとは、標準的な提供量や調理マニュアルで定められた分量を超えて食材や料理を提供することです。過剰提供は原価率を上昇させ、飲食店の収益性を悪化させる要因となります。スタッフの不注意や教育不足、顧客サービスへの過剰な配慮などが原因として挙げられます。

原価率を抑える方法

原価率が高い原因を把握したら、改善案を検討しましょう。原価率の下げ方としては、下記の方法が考えられます。

販売管理の充実

商品やサービスの原価を見比べ、原価率の低い商品の販促を優先的に行うことで、売上構成の改善を図ります。原価率が高い商品と低い商品をセットで販売するのも一つの方法です。商品の魅力や品質を高めることで、顧客満足度を向上させ、リピート率を確保することが鍵です。また、競合製品との力関係を分析し、モデルチェンジや付加価値の向上を図った上で価格を改定すると良いでしょう。

仕入管理の充実

仕入単価の引き下げのため、仕入先の多角化や競争化、まとめ買いによる値引き交渉や物流費の削減などを検討します。信頼できる仕入先の確保は重要ですが、それが1社だけだと相手方の条件に合わせるしかなく、競争の原理も働きません。信頼できる仕入先を複数確保することで、リスクヘッジが可能になります。

また、万一、相手先の倒産や災害による生産停止などが発生した場合を考えると、自社のBCP(事業継続計画)の観点からも複数社と契約する方が良いでしょう。仕入にかかる物流費は、輸送費、保管費、梱包費などさまざまなコストの合算です。まとめ買いによる値引き交渉と物流費の削減を同時に検討しましょう。

ロス率(歩留まり)の改善

投入した素材量に対する良品の割合を「歩留まり」と言います。これは製造実力を測る上で重要な指標です。歩留まりの改善は単に材料費の削減だけではなく、加工に必要な労務費や電力などの用役費の削減にもつながるため、原価全体へ大きく影響します。製造現場の実力向上の他、製造条件の見直しや客先への品質緩和なども歩留まりの改善につながるでしょう。製造条件の見直しや品質管理の強化を行い、全体的な原価の低減を目指しましょう。

製造工程の見直し

製造工程の無駄を把握し削減することで、コストを低減します。具体的には、各工程の詳細な分析を行い、不要な作業や材料の浪費に注意します。効率的な生産プロセスを確立することが、原価率改善への第一歩です。

商品・サービスの種類の削減

原価率の高い商品やサービスを戦略的に削減することで、全体の収益性を向上させます。収益性の低い商品ラインを見直し、原価率が高い商品の撤退を検討することで、コア事業へ経営資源を集中させることが可能です。市場ニーズに応じた商品ポートフォリオの最適化が重要です。

原価率が低い商品・サービスの開発

高付加価値製品の開発を進め、コストを最適化することで競争力を高めます。顧客ニーズに応じた柔軟な商品設計を行い、原価率を低く抑えるための戦略を立てます。

販売価格の値上げ

適切な理由に基づいた価格戦略を考え、市場環境や競合状況を分析した上で段階的に価格を改定します。顧客に対して価値を伝えるコミュニケーションを行い、理解を得ることが重要です。

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まとめ 利益改善の鍵は正確な原価率の理解から

原価率は企業の収益性を左右する重要な指標であり、適切な管理が求められます。原価率を把握することで、コスト削減や価格戦略の見直しが可能となり、競争力の強化につながります。業界ごとの原価率の目安を理解し、仕入や在庫管理の効率化を図ることが重要です。また、原価率が高くなる原因を分析し、改善策を講じることで、持続的な成長を実現できます。

原価率を正確に理解し、戦略的なアプローチを通じて、利益率の向上、適切な価格設定、そして持続的な利益改善を目指しましょう。

原価率の計算に関するQ&A

原価率に関するよくある質問をまとめました。

Q1.飲食店の適正な原価率の目安は?

飲食店の適正な原価率は一般的に30%とされていますが、業態によって異なることがあります。ドリンク中心の業態では低い原価率を維持しやすい一方、フード中心の業態では高い原価率が一般的です。メニューの構成によっても原価率は変動し、特定の料理や飲み物によって原価が異なる場合もあります。また、原価に人件費を加えたFLコスト(Food(原価) & Labor(人件費))は、50~60%が目安とされています。

Q2.原価率の計算を簡単に行えるサービスはある?

原価率の計算サイトや、アプリ、クラウドサービスなどにより簡単に原価率の計算を行えます。アプリなどのツールは、リアルタイムでの原価計算を可能にし、在庫管理や自動データ連携、経営分析レポートの作成など、原価管理を大幅に効率化できます。仕入情報や販売データを自動的に取り込むことで手入力の手間を削減し、常に最新の原価率を把握できます。

Q3.適正な販売価格の求め方はありますか?

適正な販売価格を決めるには、原価率の正確な計算が基礎となります。正確な原価率を把握した後、目標利益を考慮した価格設定を行います。具体的には以下の計算式で販売価格を求めます。

販売価格 = 原価 ÷ (1 - 目標原価率)

例えば、原価が1,000円で目標原価率を30%と設定した場合、販売価格は1,429円となります。 

1,000円 ÷ (1 - 0.3) = 1,429円

また、価格決定に際しては、競合他社の価格、顧客の価格許容範囲、現在の市場トレンドなどを慎重に分析し、計算結果を調整する必要があります。原価計算と市場分析を組み合わせることで、適正な販売価格を設定しましょう。

Q4.エクセルで原価率を計算する方法は?

原価率を計算するには、以下の手順を踏みます。

1.売上高と原価をエクセルのセルに入力します。

  売上高をセル A2 に、原価をセル B2 に入力します。

原価率1

2.C2 セルに以下の計算式を入力します

  = (B2 / A2) * 100

原価率2

この計算式を入力することで、C2セルに原価率が表示されます。

例:売上高が100,000円で、原価が40,000円の場合、(40,000 ÷ 100,000) × 100で、原価率は40%と表示されます。

原価率3

また、原価計算はテンプレートを使うことで簡単に行うことができます。

経理プラス:ビジネス書式テンプレート ダウンロード【原価計算表】

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 公認会計士 梶本 卓哉

Kajimototakuya

税務署法人課税部門(税務大学校首席卒業)、大手監査法人や大手投資銀行勤務等を経て公認会計士・税理士事務所開設。税務のみならず会計監査やIPO(新規株式公開)実務に強みを有する。