電子帳簿保存法への対応でタイムスタンプは必須?仕組みと発行手順
電子帳簿保存法は令和3年度の税制改正により、それまでと大きく制度が変わり注目を集めることになりました。改正後は、保存要件などが緩和された一方で、「電子取引」情報についてはデータでの電子保存が原則として義務化されることとなり、この点は企業に与える影響が小さくありません。本記事では、電子取引のデータ保存や書類のスキャナ保存を行う際に必要となる「タイムスタンプ」について、基本的な仕組みや発行手順を徹底解説します。
電子帳簿保存法の詳細については以下の記事をご参照ください。
無料ダウンロード:電子帳簿保存法とは?対象書類や遵守すべき保存要件を解説
電子帳簿保存法におけるタイムスタンプとは?
はじめに、タイムスタンプが必要となる場面や、タイムスタンプの基本的な仕組みについて確認しておきましょう。
タイムスタンプとは?
電子帳簿保存法では、電子メールやクラウドシステムなど電磁的方式を用いて契約書や見積書、請求書、納品書、領収書などを発行・受領を行うことを「電子取引」と定義し、電子取引に関する情報は電子データで保存することを要求しています。つまり、電子取引データについては、原則として紙での保存は認められず、データでの保存義務が課されるいうことです(ただし、一定の緩和措置※が設けられています)。ペーパレス化や業務効率化の促進に資する一方で、これまで電子取引情報を印刷して紙保存していた事業者にとっては、新たな負担が生じる可能性もあります。
※2023年度の税制改正大綱にて、電子取引の保存に関する猶予措置が発表されました。
改正内容について、詳しくは国税庁の発表をご確認ください。(2022年12月16日時点の情報です)
この電子取引のデータ保存方法については、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 真実性要件:保存された電子データに改ざん等が行われていないことを証明するための要件
- 可視性要件:税務調査の際などに必要な電子データをすぐに確認できるようにするための要件
この真実性要件を満たすための手段の一つに、「タイムスタンプ」の付与があります。
タイムスタンプとは電子データが”ある時刻”に存在していたこと、また、それ以降そのデータが修正等されていないことを証明するための技術的な仕組みのことです。電子データにタイムスタンプを付与することにより、データ内容の改ざんや不正な書き換えを防ぐことができます。
なお、電子帳簿保存法では上記の電子取引のデータ保存以外に、取引先から紙で受け取った請求書などをスキャナで読み込んで保存する場合やスマホで撮影して保存する場合(これを「スキャ保存」といいます)においても、真実性要件を満たすための手段としてタイムスタンプの付与を求めています。請求書などを紙で受領することの多い会社にとって、スキャナ保存はペーパーレス化の推進に役立つでしょう。
タイムスタンプの仕組み
電子データを受け取ったり紙の書類をスキャニングしたりした場合、これらのデータには作成日時等の情報が入力・記録されます。このため、これらの情報をもってタイムスタンプと同等の効果があるといえるのではないかと、疑問を持たれる方は少なくありません。しかし、これらの情報は、知識のある人であれば容易に改ざんすることができてしまいます。そのため、単なるデータの作成・保存記録をもって、電子帳簿保存法の真実性要件を満たすということはできません。
それでは、なぜタイムスタンプの付与がデータに改ざん等が行われていないことの証明になるのか、その発行方法など、技術的な仕組みについても簡単に確認しておきましょう。
企業(タイムスタンプ利用者)が電子データにタイムスタンプの付与を要求すると、そのデータに「ハッシュ値」というものが付されて「時刻認証業務認定事業者(TSA)」に送られます。TSAは受領したハッシュ値に時刻情報を紐づけしたタイムスタンプを生成して企業に送り返します。データの真実性を検証する際は、電子データのハッシュ値とタイムスタンプのハッシュ値とが一致していることを確認することで、タイムスタンプ発行時にデータが存在し、その後改ざん等が行われていないことを証明することができるのです。
タイムスタンプが不要なケース
すべての電子取引データについて、タイムスタンプの付与が求められるわけではありません。他の手段により真実性要件を満たすことができれば、タイムスタンプは不要です。本記事で詳細なご説明は割愛しますが、他の手段として以下の2つが挙げられます。
- データの訂正・削除を行うことができない、または、訂正・削除の履歴を確認できるシステムを利用する
- データの訂正・削除に関する事務処理規程を定めて、その規程に沿った運用を行う
(〜スキャナ保存に関する改正事項〜)
(3)電磁的記録について訂正又は削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認することができるクラウド等(注1)において、入力期間内にその電磁的記録の保存を行ったことを確認することができるときは、タイムスタンプの付与に代えることができることとされました。(注1)訂正又は削除を行うことができないクラウド等も含まれます。
引用:国税庁|電子帳簿保存法が改正されました
電子帳簿保存法に対応したタイムスタンプ発行の手順
ここからは、電子帳簿保存法に対応したタイムスタンプ発行の一般的な手順を解説します。実際の作業手順は、認定タイムスタンプの発行を行う事業者のサービス・システムごとに異なるため、詳しくは採用する事業者の仕様書などをご確認ください。
書類を電子データ化する
タイムスタンプは電子データに付与するものです。そのため、紙で受領した請求書などはスキャナでの読み込みや、スマホでの撮影などの手段でPDFなど電子データ化する必要があります(前述のスキャナ保存)。一方で、電子メールやクラウドサービスなどを用いる電子取引では、元々のやり取りが電子データで行われているため、上記のような手順は不要となります。
タイムスタンプのシステムに書類をアップロードする
次に、電子データをタイムスタンプ付与専用の文書管理システムや、タイムスタンプ付与機能を持つ会計システムなどにアップロードします。
タイムスタンプが付与された電子データを保存する
その後、アップロードした電子データをサービス・システムごとに定められた方法によりタイムスタンプを付与し、付与後の電子データを適当な場所に保存しておきます。
電子帳簿保存法に対応したタイムスタンプを利用する際の注意点
電子帳簿保存法に対応したタイムスタンプを利用する際は、次のようなことに注意する必要があります。
自社に合ったタイムスタンプ付与のサービスを選ぶ
電子帳簿保存法における真実性要件を満たすタイムスタンプは、総務大臣の認定(令和5年7月29日までは「一般財団法人日本データ通信協会」による認定も可)を受けたタイムスタンプ発行事業者が発行するものでなければなりません。この認定を受けた事業者が、前述の時刻認証業務認定事業者(TSA)です。TSAであるかどうかは、下記の認定マークを有しているかにより判断することができます。
なお、現在ではTSA以外にも、さまざまなASP事業者(アプリケーション・サービス・プロバイダ)がタイムスタンプ付与機能のあるサービスを提供しています。しかし、これらの中には電子帳簿保存法の要件を満たしていないものも存在します。
そこで、日本データ通信協会では「認定タイムスタンプを利用する事業者に関する登録制度」を設け、この制度により認定を受けたASP事業者のサービスには、以下の「認定タイムスタンプ利用登録マーク」が付与されています。
タイムスタンプの利用を検討する際は、これらの事業者の中から自社のシステムや業務フローにマッチした事業者のサービスを選択するとよいでしょう。
タイムスタンプの利用には初期費用とランニングコストがかかる
タイムスタンプを利用する際は、もう一つ大切な注意点があります。それは、タイムスタンプの付与サービスが基本的に有料であるということです。当然、料金体系は提供事業者によって異なるため、業者の選定はサービス内容と料金体系の双方を鑑みて決定する必要があります。
タイムスタンプ利用のための費用として、初期費用とランニングコストがかかります。ただし、このうちランニングコストについては、以下のように従量制を採用している事業者と定額制を採用している事業者があります。自社で想定されるタイムスタンプの利用状況や予算などを考慮して、ベストなプランを選択しましょう。
- 従量制:タイムスタンプ1回あたりで料金が請求される
- 定額制:月あたりのタイムスタンプ発行上限回数ごとにコースを設けていることが一般的
まとめ
ここで、これまでご説明した内容について、ポイントを確認しておきましょう。
- タイムスタンプは電子取引データ保存やスキャナ保存を行う際に、データの真実性を確保するため必要となる
- タイムスタンプ以外にも真実性の要件を満たす手段はある
- 業者を選定する際は、日本データ通信協会の認定を受けた事業者のサービスを選ぶ必要がある
- タイムスタンプの利用には、初期費用とランニングコストがかかる
タイムスタンプのQ&A
本記事の最後に、電子帳簿保存制度のタイムスタンプについて、よくある疑問をご紹介します。
Q1.無料のタイムスタンプ付与サービスはありますか?
タイムスタンプを導入する際、一般的に最もネックとなるのが前述の費用負担です。この点、現在は無料で電子データにタイムスタンプを付与できるサービスも登場しています。 しかし、この無料のタイムスタンプ付与サービスを利用する際には注意点があります。それは、無料サービスの場合、電子帳簿保存法の真実性要件を満たす仕様になっていない可能性があるということです。電子帳簿保存法対応ではない利用を想定している場合は問題ありませんが、電子帳簿保存法に対応するためにタイムスタンプを導入する際は認定マークの有無を確認する等、本当に電子帳簿保存法の要件を満たすサービスなのか、よく確認する必要があります。
Q2.タイムスタンプを付与しないとどうなりますか?
電子取引データにタイムスタンプが付与されていなくても、他の電子取引データの保存要件を満たしていれば税務上の問題にはなりません。他の電子取引データの保存要件とは、訂正・削除の履歴を確認できるシステムの利用か、事務処理規程の作成と運用のいずれかです(前述の「タイムスタンプが不要なケース」参照)。 電子取引データについて、上記の電子帳簿保存法の要件を満たさない形で保存していた場合には、税務調査の際に問題となるおそれがありますので注意しましょう。
Q3.スキャナ保存する場合にもタイムスタンプが必要ですか?
前述のように、紙で受け取った書類をスキャナ保存する場合も電子帳簿保存法の真実性要件を満たすため、タイムスタンプの付与が必要になります。ただし電子取引データ保存の場合と同様に、スキャンしたデータの訂正・削除の履歴を確認できるシステムの導入により代替することも認められます(保存日時等の記録事項が確認できるものに限る)。なお、スキャナ保存の場合には、事務処理規程による対応は認められませんので、この点には注意する必要があります。 また、スキャナ保存の場合は電子取引データ保存に比べて、タイムスタンプ等以外の他の要件も多くなっています。そのため、スキャナ保存を検討する際は、これらの要件を満たすかどうかも合わせて確認しておくことが必要です。
Q4.タイムスタンプと電子署名の違いは何ですか?
これまでご説明してきた通り、タイムスタンプは電子データの作成時刻や修正時刻を証明するためのものです。一方で電子署名は、特定の人物や組織が電子文書の内容に合意したことを証明するためのものとなります。これは、電子版の印鑑といえば分かりやすいかもしれません。
タイムスタンプはデータの改ざん防止に役立ちますが、データの作成者や承認者を特定することはできません。データの改ざん防止だけでなく、データの真正性を確保するためにも電子署名が用いられます。 タイムスタンプと電子署名を組み合わせることで、誰が、いつ、どんな内容の契約を締結したのか、また、その内容が契約締結以後改ざん等されていないことを証明することができます。
Q5.タイムスタンプはデータ作成日から付与するまでに期限はありますか?
電子取引の場合もスキャナ保存の場合も、データの作成(受領)後「おおむね7営業日以内」に行う必要があります。ただし、いわゆる「業務サイクル方式」による場合は「最長2か月+7営業日以内」に行えばよいこととされており、こちらを用いる方が一般的といえるでしょう。 なお、業務サイクル方式による場合には、データの作成(受領)からタイムスタンプを付すまでの事務処理に関する規程を定めておくことが必要となります。
参考:国税庁 電子帳簿保存法が改正されました
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。
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