繰延税金資産とは 企業会計のチェックをパスするために必要な対策
税効果会計は、企業会計の利益が法人税法の課税所得に必ずしも一致しないことから、この差を調整し企業会計の経営成績・財政状態を適正に示すための手段です。特に重要なものは、企業会計の観点から法人税等の前払いと考える繰延税金資産です。資産という以上企業会計の利益増加項目になるものですが、同時に翌期以降の法人税などの金額を減らす力がある(回収可能性)という条件を満たすものでなければなりません。ここでは繰延税金資産の概要、その適否を判断する上で採用されている会社区分を概観し、さらに実務上の対策を見ることにします。
繰延税金資産とは
法人税法は課税の公平などの観点から、企業会計の収益・費用に一定の制限を設け、それらに加算・減算することで益金・損金を算出し、その差額として課税所得を計算し税率を乗じて税金額を算出します。繰延税金資産は、企業会計上は費用だが、法人税上は損金として扱われないものに主に生じます。たとえば、貸倒引当金、棚卸資産の評価減、減価償却費などは判り易い代表例でしょう。
貸倒引当金は、期末債権に翌期以降貸倒れの恐れある場合その金額を合理的に見積もり計上することを企業会計は求めていますが、法人税法では計算方法を定めておりこの金額を上回る金額を損金とは認めません。この法人税法で認められない貸倒引当金の金額は、一般的に有税引当と呼ばれ、これに実行税率を乗じた金額が繰延税金資産とされます。貸倒引当金は、毎期期末債権の状況により見直されるものなので、これから生じる繰延税金資産は企業会計と法人税法の取扱いの差が一年以内に消滅するという観点から短期とされます。
他方で、長期とされるものの代表的な例は減価償却費です。個々の固定資産もしくはそのグループの使用状況などから、その取得価額を配分するために適切な使用期間(耐用年数)を見積り、適切な金額按分方法(定率法、定額法、生産高比例法など)によって費用化することを企業会計は求めています。法人税法では、国内いかなる場所いかなる使用状況にあろうとも、一定の例外措置はありますが、同一の耐用年数の適用を求め、採用できる金額按分方法も制限しています。減価償却費の繰延税金資産金額算定は貸倒引当金と同様です。但し、法人税率等の変更が予め決定されている場合には、企業会計と法人税法との差異が消滅すると考えられる年度毎に使用する実行税率はその年度に予定されているものでなければなりません。
繰延税金資産の計上には“合理性”が必要
繰延税金資産は、上記の計算で算出されますが、これをこのまま貸借対照表に計上して良いということにはなりません。冒頭に触れたように資産として適切かという企業会計のチェックが必要になります。このチェックは、繰延税金資産が、将来の法人税等の金額を減額するものであるかどうかです。従って、将来繰延税金資産以上の法人税等の金額が生じることに合理性が必要となります。この観点から日本公認会計士協会 監査委員会はその報告書第66号として「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」を公表し、いくつかの会社の状況に応じた取扱いを示し、これが実務指針として広く採用されています。
この報告書の5.将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性の判断指針では、会社実態に応じ会社の状況を5つ例示しそれぞれの区分に応じた判断を求めています。更に、過去の業績等により回収可能性の判断を行う場合、長期にわたる場合の判断を行う場合に分けてその指針を示しています。他方で、将来年度の課税所得を合理的に見積もる際の留意事項を示しています。
繰延税金資産を計上するために必要な対策
繰延税金資産には上記のようなチェックがあるので、これをパスするための対策が必要です。
先ずは、将来の事業計画の精度を上げ、実現可能にして合理的な将来像を作ることが必要です。これは繰延税金資産を根拠づける以上に、会社の将来像を示し経営の指針たるものとして重要です。事業計画を確実に達成してきたという歴史を積み重ね、将来も同様に達成できるという安心感を構築した一つの成果として繰延税金資産の計上が可能となるという考え方が大切です。
次に、代替策の検討が必要になる場合があります。これは単独の決算では計上を認めがたい繰延税金資産も、連結納税という手段を取れば認められる可能性があるかもしれません。
まとめ
繰延税金資産の概要と繰延税金資産を計上するための対策についてご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。
税効果会計で繰延税金資産が算出される場合、他の資産同様にチェックが行われますから、パスする必要があります。計上されれば、当然の帰結として利益が増加します。この利益増加は企業側からすれば好ましい結果ですが、債権者や株主からすれば単なる計算上のみせかけの利益増と受け取られるかもしれません。この点を踏まえ、実務上指針となるべき会社区分が示されており、企業からすればこの指針を満たすような環境の整備が必要となります。
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