建設業の工事原価管理とは?経理が難しいとされる理由も解説

建設業の工事原価管理とは?経理が難しいとされる理由も解説

建設業では、プロジェクトが完了するまでにかかるコストを計算して管理する工事原価管理を実施しなければなりません。主な目的は、予算や実績を管理することや、かかる費用を予測することです。

本記事では、建設業で工事原価管理を実施するメリットや、経理業務が難しいとされる理由についても解説します。

建設業の工事原価管理とは

建設業の工事原価管理とは、建設プロジェクトが完了するまでにかかる費用(工事原価)を算出し、管理することです。工事原価は、以下の要素で成り立っています。

  • 材料費(木材やコンクリートなど、工事に使う資材を調達するのにかかる費用)
  • 労務費(工事に携わる労働者に支払う賃金)
  • 外注費(外部の業者に工事の一部を依頼する際に発生する人件費や機材費など)
  • 経費(事務関連の費用や工事に関する雑費)

製造業の製造原価は材料費・労務費・経費の3要素で構成されるのに対し、建設業の工事原価は経費のうち外注費を独立させて4つの要素として考えるケースが一般的です。

建設業で工事原価管理をする目的

そもそも、建設業許可を得るためには「完成工事原価報告書」の提出が必要とされる点が、工事原価管理をする目的です。完成工事原価報告書とは、一般の販売管理費とは別に1年間で工事にかかった材料費・労務費・外注費・経費を計上して報告するための書類を指します。

そのほかに、建設業で工事原価管理をすることの主な目的は、以下のとおりです。

  • 予算や実績を管理する
  • かかる費用を予測する
  • 追加工事が発生した際に費用を調整する

それぞれ解説します。

予算や実績を管理する

事業の予算を管理することが、建設業で工事原価管理をする主な目的です。

プロジェクトを計画的に遂行するためには、適切な予算を設定して運営しなければなりません。そこで、建設工事の現場ごとに原価を想定して実行予算を作成することで、プロジェクトにかかる費用を適切にコントロールできます。

また、プロジェクトの実績を把握することも、工事原価管理の目的です。工事原価管理を通じてプロジェクトの進捗やかかる費用を理解しておくことにより、現状の課題を分析できます。

かかる費用を予測する

プロジェクトごとにかかる費用を予測することも、工事原価管理を実施する目的です。これまでにかかった材料費・労務費・外注費・経費の額と残りの作業量を把握すれば、今後かかるおよその費用を計算できます。

現実的な費用を予測しておけば、あらかじめ取引先の金融機関に相談するなどして資金を調達しておき、突然資金不足に陥ることなどを回避できるでしょう。

追加工事が発生した際に費用を調整する

追加工事が発生した際に発生する費用を調整できるようにすることも、工事原価管理を実施する目的です。

建設現場では、施工を始める時点で予測していない事態が生じたり、施主からの希望があったりして追加の工事が発生することがあります。追加工事の内容によっては、多額の費用が発生するケースもあるでしょう。

工事原価管理で費用の目安を把握していれば、妥当な額で見積もりを再度作成したり、施主と金額を交渉したりできます。これにより、追加工事において過剰な支出が発生して手元資金が不足する事態を防げます

建設業で工事原価管理を実施する際の流れ

一般的に、原価管理は以下のように進めます。

  1. 目標とする原価(標準原価)を設定する
  2. 費目ごとに、実際にかかったコスト(実際原価)を計算する
  3. 費目ごとに標準原価と実際原価の差を分析し、原因を究明する
  4. 3の結果に基づき、改善を図る

建設業で工事原価管理を実施する場合も製造業で製造原価管理を実施する場合も、基本的な流れは同じです。ただし、大量生産を行う製造業(オーダーメイドなど除く)では原価計算の際に総合原価計算を採用するのに対し、建設業では個別原価計算を用いる点が異なります

総合原価計算は一定期間に発生した原価の合計額を生産数で割ることにより、1個あたりの原価を計算する方法で、個別原価計算は製品・プロジェクト・工事単位で個別に計算する方法です。

個別原価計算では、材料費や労務費のようにプロジェクトに直接関係する「直接費」と直接関係しなくても間接的に必要になる「間接費」に分けて計算するため、手間がかかる分、より正確な原価を把握できます。

なお、間接費に分類した費用は、工事を担う建設部門と人事や労務などを担う管理部門への割り振りが必要です。

建設業が工事原価管理を実施するメリット

建設業を営む事業者が工事原価管理を実施するメリットは、主に以下のとおりです。

  • 財務状況を示せる
  • 利益改善につながる

それぞれ解説します。

財務状況を示せる

工事原価管理を実施して完成工事原価報告書を作成することにより、自社の財務状況を示せる点がメリットです。

完成工事原価報告書は、建設業の許可申請時だけでなく、毎年実施する決算報告時にも提出します。書類に盛り込まれる主な情報は、工事のためにどれだけの材料を仕入れて使用したか、作業員にどれだけの賃金を支払ったか、工事でどれだけ光熱費がかかったかなどです。

そのため、正しく適正な数字を記載することで、投資家や金融機関などの関係者に対して自社が健全な事業者であることをアピールできるでしょう。

利益改善につながる

自社の利益改善につながることも、建設業を営む事業者が工事原価管理を実施するメリットです。

予算や過去の実績などを考慮して工事原価管理を実施することで、どれくらいのコストに抑えれば黒字を確保できるのかの損益分岐点を把握できます。費用がかさむ場合は事前に対策を講じて赤字を回避できるでしょう。

また、あらかじめ工事ごとの利益も予測可能なため、手を引くべきか判断する際の材料にもなります。

建設業における工事原価管理が難しいとされる理由

一般的に、建設業における経理業務や工事原価管理は難しいと言われています。主な理由は、以下のとおりです。

  • 建設業ならではの勘定科目があるため
  • 売上計上のタイミングで迷いやすいため
  • 外注費と労務費を区別しにくいため

それぞれの理由について解説します。

建設業ならではの勘定科目があるため

建設業ならではの勘定科目が存在することが、経理業務や工事原価管理が難しいとされる理由のひとつです。建設業では、(完成)工事原価以外にも以下のような一般の会計処理では見かけることの少ない勘定科目を使います。

  • 完成工事高(一般会計の「売上高」)
  • 完成工事総利益(一般会計の「売上総利益」)
  • 未成工事支出金(一般会計の「仕掛品」)
  • 未成工事受入金(一般会計の「前受金」)
  • 工事未払金(一般会計の「買掛金」)

そのため、他業種の経理業務に関する経験や知識がある場合でも、建設業の工事原価管理をする際に戸惑うことがあるでしょう。

売上計上のタイミングで迷いやすいため

売上を計上するタイミングで迷いやすいことも、経理処理や工事原価管理が難しいとされる理由です。とくに建設業は工事開始から完了までに1年以上かかることがあるため、どのタイミングでどの費用を計上すべきか判断しにくいでしょう。

建設業が採用する会計基準には、工事進行基準と工事完成基準があります。工事進行基準が工事が終了するまでの間で売上や原価を分散して計上する基準であるのに対し、工事完成基準は工事が終了した時点における会計期にまとめて売上や原価を計上する基準です。

工事進行基準を採用する場合は、着工から完成・引き渡しまでに期をまたぐケースにおいて、完成前に発生した費用を未成工事支出金として計上しなければなりません。その後、工事が完成したら未成工事支出金を完成工事原価に振り替える作業も必要です。

外注費と労務費を区別しにくいため

外注費と労務費を区別しにくいことも、建設業の工事原価管理が難しいとされる理由です。

一般的に、製造業などの売上原価管理は材料費・労務費・経費の3要素で構成されているのに対し、建設業は材料費・労務費・外注費・経費の4要素で構成されています。

たとえば、自社で雇っている従業員に支払う賃金や福利厚生費などは労務費に該当するのに対し、一人親方に依頼する際に支払う費用は原則として外注費です。

しかし、外部に委託する場合でも材料費を自社で調達しており、本質的に臨時雇用者へ賃金を支払うケースと同じと判断される場合は、労務費で計上しなければなりません。このように、外部への依頼でも外注費に該当しないことがあるため、処理に不慣れだと困惑するでしょう。

建設業の工事原価管理をスムーズに進める方法

建設業の工事原価管理をスムーズに進める方法は、主に以下のとおりです。

  • Microsoft Excel(以下、Excel)で工事原価管理表を作成する
  • ソフト・システムを導入する

それぞれ解説します。

Excelで工事原価管理表を作成する

今まで主に手書き・手計算が中心だった場合は、Excelを活用することによりスムーズに工事原価管理表を作成可能です。

たとえば、管理表に入力する科目欄をそれぞれプルダウンリストから選択できるようにすることで、都度材料費・労務費・外注費・経費を記載したり入力したりする手間を省けます。入力必須項目をあらかじめ色付けすることにより、入力漏れも防げるでしょう。

また、ExcelのVLOOKUP関数やXLOOKUP関数などは、ほかのシートに記載されている情報を参照して自動で入力する際に役立つ関数です。さらに、マクロ(VBA)の知識やスキルがあれば、複雑な処理も自動化できます。

なお、Excelで工事原価管理表を作成する際は、入力する関数を間違えないこと、入力済みの計算式を誤って消去・変更しないことなどに注意が必要です。

ソフト・システムを導入する

建設業向けの原価管理ソフトや経理システムを導入することも、工事原価管理をスムーズに進める方法のひとつです。専門のソフトを使えば建設業ならではの勘定科目にも対応できるため、従業員にかかる負担を軽減できます。

Excelのように自分で数式を入れる手間なく自動で計算できる点も、ソフトやシステムを導入することのメリットです。また、原価管理ソフトを導入すれば、標準原価と実際原価の差を分析したり、今後かかる原価をシミュレーションしたりできます。

建設業向けソフト・システムを選ぶ際のポイント

建設業向けのソフトやシステムを選ぶ際のポイントは、主に以下のとおりです。

  • 自社の経理に対応しているか
  • 自社の業務にマッチしているか
  • 予算の範囲内か
  • サポートは自社の営業時間に対応しているか

選び方のポイントを解説します。

自社の経理に対応しているか

自社で導入している経理の計上方法に対応しているか確認することが、建設業向けソフトやシステムを選ぶ際のポイントです。たとえば、自社で工事進行基準を採用している場合は、導入予定のソフト・システムで対応できるのかを確認しましょう。

また、建設業向けではなく一般的な会計ソフトの導入を検討している場合は、建設業特有の勘定科目を入力できるかチェックすることも重要です。

自社の業務にマッチしているか

自社の業務にマッチしているのかを確認することも、選ぶ上で大切なポイントです。ソフト・システムの導入を検討した段階で、どこまでの業務を対応させるのかを決めておくとよいでしょう。

ソフトやシステムによって、原価管理・予算管理に特化したものもあれば、メンバー間でチャットを使ってやり取りしたり、日報を入力したりする機能があるものもあります。

予算の範囲内か

導入を検討中のソフト・システムが、会社の予算に収まるかを確認することも必要です。また、予算の範囲内でも十分な機能が備わっていないことがあるため、コストパフォーマンスも比較して選びましょう。

なお、導入費用はシステムの提供方法によって大きく変わることがあります。自社にサーバーを設置するオンプレミス型は導入費用が高く、インターネット経由で利用可能なクラウド型は比較的安いことが一般的です。

サポートは自社の営業時間に対応しているか

ソフト・システムの内容だけでなく、サポートが自社の営業時間に対応しているかチェックすることも大切です。とくに土日や遅い時間に稼働することがある場合は、作業中にトラブルが生じても対応できるように必ず確認しておきましょう。

また、サポート内容を把握することも重要です。たとえば、ソフトやシステムをすぐに使いこなせるか不安な場合は、操作指導のサポートがあるかを確認しましょう。

まとめ

建設業の工事原価管理とは、建設プロジェクトが完了するまでにかかる材料費・労務費・外注費・経費を算出し、管理することです。各工事にかかる費用などを予測することで事前に対策を講じて利益改善につなげられる点が、工事原価管理を実施する主なメリットとして挙げられます。

しかし、特有の勘定科目が存在し、売上計上のタイミングでも迷いやすいため、建設業の工事原価管理は簡単ではありません。そこで、業務負担を軽減してスムーズに工事原価管理を実施するには、自社にあったソフトやシステムの導入を検討するとよいでしょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 経理プラス編集部

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