よく分かる!中国増値税の仕組みのかんたん解説

よくわかる!中国増値税の仕組みのかんたん解説

増値税とは

増値税とは、中国税収の4割近くを占める流通税の一種で、日本の消費税に相当する付加価値税です。
具体的な税額算出式は

(納付すべき増値税額)=当月売上税額 - 当月仕入税額
 =(当月売上高×増値税率)-(当月仕入高に係る増値税額)

となります。

増値税制度の骨子は、以下の通りです。

・ 中国国内で、物品を販売したり、組立作業や修理サービスを行った場合や、物品を輸入した場合、増値税が課せられます。但し、課税率は、日本の消費税のように一律ではなく、対象品目や売上規模に応じて、異なる税率が設定されています。たとえば、標準税率は17%ですが、一部の特定品目(穀物、食用油、ガス、書籍等)については13%に軽減されており、更に、小規模売上企業(年間売上高が50万元以下等の売上高基準に該当する企業)の場合、仕入増値税の控除ができない代わりに、課税率は3%に軽減されます。

・ 増値税の申告納税は、通常、月単位で行い、翌月15日が申告納税の締切日となっています。そして、申告納税は、企業の本社所在地で行うのが一般的ですが、営業活動を行う支店があり、本社と支店が同一県内にない場合、本社と支店がそれぞれの所在地で申告納税しなければなりません。

・ 物品を輸出した場合、輸出品に係る仕入増値税が還付されます。但し、この還付率は0%~17%の間で品目毎に設定され、都度、政策的に変更されるため、輸出売上の多い企業は、日頃から注意を払っておく必要があります。

・新設会社の場合、売上高の大小に関わらず、自動的に小規模売上企業に区分され、仕入増値税の控除ができないため、適切なタイミングで、仕入税額の控除が可能な納税人資格を申請する必要があります。

・日本の消費税計算では、会計帳簿が算定根拠となりますが、中国の増値税計算では、仕入先等から入手した増値税インボイス(増値税専用発票など)が、控除可能な仕入増値税の算定根拠となりますので、増値税インボイスは適切に管理・保管する必要があります。

増値税実務のチェックポイント

増値税の申告納税や記帳業務は、使用言語とその専門性から、現地従業員が実務を担当し、財務部門管轄の日本人は内容チェックや承認のみを行うのが通常ですが、増値税業務の内容チェックについては、少なくとも下記事項について、自らチェックするか、実務担当者に確認を求めましょう。

仕入増値税に対する目の付け所

  • 仕入増値税インボイス(専用発票)は正規伝票か?
    発行企業名と代金支払先名が一致しているか?
    発票記載の貨物名と実際の貨物が一致しているか?
    (企業名等が不一致の場合、仕入税額の控除が認められないので、要注意。)
  • 輸送費発票の出荷人、荷受人、発到着地、輸送方式、数量、金額等は正しいか?
  • 税関発行の増値税専用発票の記載品種、数量等に誤りはないか?
  • 仕入返品や仕入割引が発生した場合の仕入増値税控除の訂正処理は適正か?
  • 増値税対象外取引や非正常損失、資産滅失が発生した場合、当該取引に係る仕入増値税控除の除外処理は正しく行われているか?

売上増値税に対する目の付け所

  • 商品出荷後(納税義務発生後)、遅滞なく売上増値税発票を発行しているか?(増値税発票の発行時期は売掛金入金時ではありませんので、要注意。)
  • 売上返品、売上割引があった場合、当該金額に係る赤字発票の発行や記帳処理に誤りはないか?
  • みなし販売品(サンプル出荷、本社から県外の営業支店への商品移送等)や、無償サービス提供時の売上増値税の処理に誤りはないか?
  • 増値税率の異なる取引が一体となっている場合、「混合販売」と認定され、高い方の税率が適用されることになるが、こういった「混合販売」の処理は正しく行われているか?

ここだけは押さえておきたい増値税のツボ

増値税の申告や記帳内容のチェッカー役として、最低限押さえておきたいポイントは、以下の通りです。内容は簡単ですが、現地従業員と言えども誤りやすい事項であり、こういったポイントを確実に押さえておけば、税務申告の誤り防止に役立つとともに、実務チェッカーであるあなたに対する現地社員の評価も、1ランクアップするかも知れません。

・ 入手した増値税専用発票は、税務局の認証後、仕入控除可能となりますが、認証を行った翌月に仕入税額控除の申告を行わないと、仕入増値税の控除は認められなくなります。一方、認証を行った翌月の売上税額が仕入税額を下回る場合、控除しきれない仕入税額は翌月以降に繰り越すことができます。尚、発票の認証手続きは、発票発行日から180日以内に行う必要がありますので、仕入認証の適時実施を心掛けましょう。

・ 増値税の納税義務は、売上代金受領日または商品出荷日に発生しますが、増値税発票が先に発行された場合、発票発行日が納税義務発生日となりますので、会計上の売上処理とは一致しません。

・ 下記事項は、会計上の売上取引ではありませんが、税務上は「みなし販売」と認定され、増値税発票発行の有無を問わず納税義務が発生しますので、要注意です。

  • 自社製品をサンプル出荷した場合
  • 自社製品を役務サービスに提供したり、福利目的で消費した場合
  • 自社製品を現物出資したり、贈与した場合
  • 自社製品を県外にある支店へ移送した場合

特にサンプル出荷や支店移送の場合、営業担当者等が増値税関連知識に疎く、財務担当者に報告してこないケースも多々見受けられるため、財務部門から営業部門に定期的に確認させましょう。

・ 増値税専用発票は税務局が管轄発行する専用伝票ですが、パクリ天国と称される中国では、増値税専用発票の偽物が市中に流通し、容易に入手できるので、税務局のHPにある発票チェックシステムを適宜使用することで、偽物の発票を入手しないよう、注意を払いましょう。また、横流しされた正規の増値税専用発票も流通していますので、取引先の社名表記と発票記載の社名や社印名称が一致しているかどうか、キチンと確認するとともに、疑わしい場合は、最寄りの税務局で確認してもらいましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 新名 清二

新名 清二様イメージ

1975年4月、住友電気工業株式会社に入社し、工事部門の原価計算及び利益管理業務を担当後、海外工事プロジェクトの財務担当や、米国現地法人の新設手続きに参画後、当該法人の初代財務マネージャーを務める。 1990年4月、小野田セメント株式会社(現太平洋セメント株式会社)に入社し、原価計算及び予算管理業務を担当後、米国法人の財務マネージャーや、複数中国法人の経営管理担当やCFO職、COO職を歴任する。 2010年11月、小野田化学工業株式会社に入社し、中国現地法人の新設手続きに携わるとともに、上海に代表処を設立し、首席代表として上海勤務後、2015年10月に同社を退職、現在に至る。