棚卸資産回転期間とは?棚卸資産回転率との違いや計算式、活用方法

棚卸資産回転期間は、自社の適正在庫の検討に必要な数値です。在庫がどの程度の期間で販売されるかを示し、経営の健全性を評価する上で欠かせません。また、棚卸資産回転率との違いを理解し計算式を活用すれば、適切な在庫数や在庫金額が把握できるメリットもあります。
本記事では、棚卸資産回転期間の意味から正確な計算方法、さらに実際の活用方法について詳しく解説します。企業規模や業種によって適正な回転期間が異なる注意点もあわせて理解できれば、より効果的な在庫管理と経営改善を実現できるでしょう。
棚卸資産回転期間とは
棚卸資産回転期間は、商品が仕入れられてから販売されるまでの平均的な時間(リードタイム)を示しています。企業の資本効率や運営効率の評価に必要です。
棚卸資産回転期間は、企業の適正な在庫状況を知るために必要な指標です。回転日数を計算し滞留在庫が正しく把握できれば、効果的な在庫管理と経営改善に役立ちます。以下では、棚卸資産回転期間の定義と関連する棚卸資産回転率について詳しく説明します。
棚卸資産回転期間の定義
棚卸資産回転期間とは棚卸資産の運用効率を図る指標です。在庫が1回転するまでにどの程度時間がかかるかがわかります。在庫回転期間とも呼ばれており、スーパーやコンビニエンスストアなど多くの種類の商品を取り扱う小売業にとって利益をあげるためのポイントと言えるでしょう。
棚卸資産回転期間が短い場合、棚卸資産が効率的に収益に結びついていると判断でき、長い場合は、在庫の増加や販売までの期間の長期化があると判断できます。
棚卸資産回転率とは?
棚卸資産(在庫)の運用効率を示しているのが棚卸資産回転率です。特に社内で取り決めがない場合は、1年間で販売するための商品が何回転しているかを計算します。回転数が多ければ商品がよく売れているとわかります。
棚卸資産回転期間と棚卸資産回転率の計算方法
棚卸資産回転期間と棚卸資産回転率の両方を理解すれば、適正な在庫管理が可能になり「仕入れた商品が売れ筋かどうか」がわかり、欠品防止につながります。
棚卸資産の回転率と棚卸資産回転期間について、具体的な計算方法を見ていきましょう。
棚卸資産回転率の計算方法
売上高を棚卸平均で割り、回転率を出します。棚卸資産の平均は、期首と期末の平均を求めます。
また、売上原価を使用する計算方法もあります。
さらに、より正確な棚卸資産回転率を計算するためには、以下の計算式を使用します。
たとえばA社は、売上高が5,000万円で棚卸資産平均が500万円と仮定しましょう。上記の計算式にあてはめると次のようになります。
同様にB社の売上高が5,000万円、棚卸資産平均が300万円である場合は、次のようになります。
2社を比較すると同じ5,000万円の売上高でも棚卸資産平均が300万円のB社の方が16.7回転になり棚卸資産回転率が大きいことから「B社の方が資本効率がよい」と判断できるでしょう。
棚卸資産回転期間の計算方法
棚卸資産回転期間の単位が「日」になるように求める計算式です。1日あたりの売上原価は「売上原価 ÷ 365日」で計算できます。
単位が「日」ではなく「年」や「月」で求めたい場合には、365日を1年あるいは12か月に置き換えて計算します。
棚卸回転期間は、1年間を回転率で割り計算します。
上記で算出したA社とB社の回転率で、それぞれの回転期間を算出してみましょう。
たとえばA社は、上記の計算結果から回転率が10回転とわかりました。
12か月(1年間) ÷ 10(棚卸資産回転率) = 1.2か月(棚卸資産回転期間)
日数で計算すると36.5日であり、月数で計算すると1.2か月です。どちらで計算しても、大きな誤差は発生しないことがわかります。
同様に、B社の棚卸資産回転率16.7回転を利用して考えてみましょう。
12か月(1年間) ÷ 16.7(棚卸資産回転率) = 約0.7か月(棚卸資産回転期間)
日数で計算すると約21.9日であり、月数で計算すると約0.7か月です。
2社を比較すると、同じ1年間の日数でも棚卸資産回転率が16.7のB社のほうが、棚卸資産回転期間は短いことから、「B社の方が短期間で売り上げに結びつきやすくいい傾向である」と判断できるでしょう。
棚卸資産回転期間の目安
棚卸資産回転期間は業種や企業規模で異なります。適切な在庫管理を行うには、自社が属する業界における標準的な回転期間を把握して基準となる数字を見つけることが必要です。以下では、全産業の平均値や業種別の詳細な数値を紹介し、さらに業種ごとの棚卸資産回転率についても解説します。
棚卸資産回転期間の目安
2023年度の棚卸資産回転期間(全産業・全規模)は1.12か月です。そのうち製造業(全規模)は1.67か月、非製造業(全規模)は0.91か月です。これは、全産業としては在庫を仕入れてから販売するまで平均約34日かかることを意味し、そのうち製造業は約50日かかっていることがわかります。さらに、非製造業では平均約27日かかっていることもわかります。
参考:財務省 財務総合政策研究所 「法人企業統計からみえる企業の財務指標」⑭棚卸資産回転期間
【業種別】棚卸資産回転率の目安
業種 | 棚卸資産回転率 |
---|---|
建設業 | 10.41 |
製造業 | 7.54 |
情報通信業 | 28.90 |
運輸業、郵便業 | 107.85 |
卸売業 | 14.27 |
小売業 | 11.69 |
不動産業、物品賃貸業 | 4.99 |
学術研究、専門業、技術サービス業 | 34.82 |
宿泊業、飲食サービス業 | 76.98 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 66.73 |
サービス業(他に分類できないもの) | 67.54 |
参考:e-Stat 中小企業実態基本調査 令和5年確報(令和4年度決算実績)
上記は、「中小企業実態基本調査 令和5年確報(令和4年度決算実績)」から「売上高 ÷ 棚卸資産」(いずれも法人企業の合計)で計算した業界別の回転率です(小数点第3位以下を切り捨て)。業界の違いで、ばらつきがあり「不動産業、物品賃貸業」のように4.99の業界もあれば、「運輸業、郵便業」のように107.85の業界もあります。不動産業は金額が高い建物を在庫として所有しているため、簡単に販売できないことを考慮すると回転率が低い理由がわかります。
棚卸資産回転期間を経営へ活かすには?
棚卸資産回転期間を活用すれば、在庫管理の改善や経営戦略に役立つ財務分析が可能です。過剰在庫を防止し決算期の適正な期末在庫と翌事業年度の期首在庫の見極めに役立ちます。
まず業種別の平均と比較すれば、自社の現状を把握できます。次に、同業他社との比較により、詳細な分析が可能です。最後に、商品別の分析を実施すれば、具体的な改善策が見つけ出せます。この3つの方法を組み合わせると、自社にとってより効果的な経営改善が実現できます。
業種別の平均と比較する
棚卸資産回転期間は業種によって平均値が異なります。同業種の平均値と自社を比較すると目標値が設定できます。回転期間が平均より短い場合は販売機会を逃している可能性があるため、仕入商品の見直し(売れ筋の見極め)が必要です。
同業他社と比較する
棚卸資産回転期間は事業規模によっても平均値が変わりやすい点があります。自社と同規模の他社と比較すれば、自社の回転期間の現状が分かりやすくなります。資本金額が少ないほど棚卸資産回転期間が短くなる傾向です。たとえば、小規模事業者がこの状況にあてはまります。一方、大規模事業者は回転期間が長くなりやすい傾向です。企業規模により効率性が異なるため、自社の規模と合う同業他社との比較が必要です。
商品別に棚卸資産回転期間を把握する
在庫管理の視点として、商品ごとに棚卸資産回転期間や回転率の確認が必要です。売れている商品や在庫が残っている商品を把握しやすくなります。棚卸資産回転期間は、在庫管理を行うための1つのデータとして活用できるため、人気商品は品切れがないよう注意し、売れていない商品は在庫を減らすよう調整する必要があります。売れ行きを把握できれば、適正な商品や原材料の発注につながりコスト削減につながります。
まとめ
棚卸資産回転期間は、企業の在庫管理を知る重要な財務指標です。この指標を活用すれば、経営改善が可能となり資金繰り計画にも役立ちます。在庫管理システムを導入すれば適切な目標設定だけではなく、商品回転の効率化や資金繰りの改善が期待できます。また、売上債権や製造業における仕掛品の管理にも関連し、物流にも影響を与えます。ただし短縮化だけを目標にするのではなく、顧客ニーズや市場動向を考慮した総合的な視野が必要です。継続的な改善を通じて、持続的な成長を実現できるでしょう。
棚卸資産回転期間に関するQ&A
棚卸資産回転期間について、よくある疑問や関連する重要なポイントをQ&A形式でまとめました。
棚卸資産回転期間は重要な指標ですが、ほかにも知っておくべき指標や、回転期間を改善するための方法、棚卸資産の変動が企業に与える影響など、実務に直結する疑問が多く存在します。以下のQ&Aを実務での参考にしてください。
Q1. 棚卸資産回転期間は短いほど良い状態?
期間が短くなるほど、商品が早期に収益化できている状態です。ただし、回転期間が短すぎる場合、適正在庫が保たれていない可能性があります。自社の数値が適正かどうかは業界平均や同業他社と比較すると良いでしょう。
Q2.棚卸資産回転期間の他に役立つ指標はある?
棚卸資産回転期間と併せて確認すると有用な指標には3つあり、特定の商品在庫が1回転するまでの日数を示す「商品回転期間」、仕入れた商品の支払いまでの平均日数を表し、資金繰りの状況がわかる「仕入債務回転期間」、売上代金の回収にかかる平均日数を示し、資金繰りや与信管理の状況を把握できる「売上債権回転期間」があります。
Q3.棚卸資産回転期間を短くするにはどうする?
棚卸資産回転期間を短縮する5つの方法があります。1つ目は需要予測を行い適正な在庫水準を保つ「需要予測の精度向上」、2つ目は予約販売や受注販売を活用し、過剰在庫を抑制する「販売方法の見直し」、3つ目はリアルタイムで在庫状況を把握し、適正在庫を維持する「在庫管理システムの導入」、4つ目は売れ筋商品と滞留商品を識別し、在庫の最適化を図る「商品別の分析」、5つ目は生産や配送工程を改善し、在庫滞留時間を減らす「生産効率や物流効率の向上」です。
Q4.棚卸資産が減るとどうなる?
棚卸在庫の減少で受ける影響は4つあります。1つ目は資金流動性が高まりキャッシュフローの改善が見込める、2つ目は倉庫利用料などの保管コストの削減、3つ目は商品劣化による陳腐化リスクの低減、4つ目は在庫管理業務が簡素化され生産性向上が見込める、などが挙げられます。ただし、過度な在庫減少は販売機会の損失につながるため適正水準での維持が重要です。
Q5.棚卸資産が多い業種は?
棚卸資産が多い業種は「不動産業」「非鉄金属業」「石油・石炭製造業」「精密機器業」「電気機器業」です。これらの業種は商品の特性や生産・販売サイクルの長さなどから、相対的に高い棚卸資産を保有する傾向があります。
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