前払金とは?仕訳や勘定科目、前払費用との使い分けを解説

前払金とは?仕訳や勘定科目、前払費用との使い分けを解説

商品や材料などを仕入れる際、代金の一部を納品前に支払うことがあるでしょう。このように事前に支払った金額は、「前払金」の勘定科目で経理処理を行います。前払金の具体例や仕訳の方法、前払費用や仮払金など、混同しやすい勘定科目との違いについて詳しく解説します。

前払金とは

前払金とは、仕入先へ代金の一部を事前に支払う時に用いる勘定科目で、いわゆる手付金のことです。取引によっては手付金や内金、前渡金などと呼ばれることがありますが、勘定科目は前払金を使用します。

前払金の具体例

前払金に当てはまるものとしては、商品や原材料などの手付金、航空チケットの事前購入費用、製品を外注加工するための前渡金などがあります。

具体的な例として、「100万円の商品を2週間後に納品する約束で契約し、代金の一部30万円を事前に現金で支払った」ケースを考えてみましょう。この場合、事前に支払った30万円を前払金の勘定で処理します。

前払金の仕訳方法

先ほどの例の仕訳は、下記の通りです。

借方金額貸方金額
前払金300,000現金300,000

商品などを注文し手付金を支払ったときは、前払勘定の借方に金額を記入します。手付金を支払うことで商品などを受け取る権利(債権)が生じるため、前払金勘定は資産勘定となるのです。貸方には、減少した現金30万円を記入します。

ここで「残りの70万円は記帳しなくて良いのか?」と疑問に思われる方がいるかもしれません。費用の計上は、一般的には検収基準が使われます。帳簿への記帳は契約や発注、支払いのタイミングではなく、正しく納品された時点で行われます。そのため、残金についての仕訳は行われません。

前払金は現金という資産勘定が動くため、一時的に処理する勘定と言えるでしょう。なお、前払金は売掛金と違って金銭を請求できる権利ではないため、貸倒引当金の対象ではありません。

次に、商品が納品されたケースの仕訳です。「商品100万円分が納品され、残りの代金70万円は掛とした」場合の仕訳は下記の通りです。

借方金額貸方金額
仕入1,000,000前払金
買掛金
300,000
700,000

商品が納品されたので仕入として計上し、残金70万円は買掛金とします。前払金は貸方に記入しますので、借方と貸方で打ち消しあいゼロです。前払金で処理する方法が原則ですが、実務上、前払いの発生回数が多い場合は買掛金で処理し、決算時に前払金へ振り替える方法も容認されています。下記に、例を記載しました。

100万円の商品を注文し、代金の一部30万円を現金で前払いした。

借方金額貸方金額
買掛金300,000現金300,000

商品が納品され、残りの代金は掛とした。

借方金額貸方金額
仕入1,000,000買掛金1,000,000

期末の買掛金残高のうち、20万円は前払いに該当する。

借方金額貸方金額
前払金200,000買掛金200,000

期首に前払金を振り戻す。

借方金額貸方金額
買掛金200,000前払金200,000

前払金と似ている勘定科目

次に、前払金勘定と類似しており、間違いやすい勘定科目について解説します。

前払費用

もっとも混乱しやすいのが、前払費用との違いでしょう。前払費用とは、前もって代金を支払わないと継続的な商品やサービスが受けられない場合に、支払った金額を処理する勘定科目です。具体的には火災保険や家賃、リース料金、新聞購読代などが該当します。物品などの購入に先立って支払う場合は前払金、継続的なサービスなどへの前払いは前払費用と理解しましょう。

前払費用は「費用」と文字が入っていますが、前払金と同様に資産勘定となりますので注意してください。以下に、仕訳の具体例を記載します。

コピー機のリース料金6か月分60万円を現金で支払った。

借方金額貸方金額
前払費用600,000現金600,000

支払ったリース料金のうち、1か月分を月末に振り替えた。

借方金額貸方金額
賃借料100,000前払費用100,000

支払い時に前払費用を計上し、毎月末に1か月分の費用を振り替えていきます。なお、金額に重要性がない場合は支出時に費用処理し、期末に未経過分を前払費用にする方法も可能です。前払費用についての詳しい解説は、下記リンクも参照ください。

経理プラス:具体例で学ぶ前払費用の基本 費用なのに「資産」になる理由とは

決算日から1年を超えた費用を支払う場合、1年以内は前払費用(流動資産)、以降は長期前払費用(固定資産)と分けて処理します。1年を基準に流動と固定に分けることをワンイヤールールと言いますが、ワンイヤールールの説明は下記リンクを参照ください。

経理プラス:正常営業循環基準とは?一年基準との違いなど具体例を解説!

仮払金

仮払金とは、現金を支出したものの取引内容や金額がまだ決まっていない場合に、一時的に使用する勘定科目です。例えば従業員の出張や取引先との接待のため、概算の金額を手渡したときなどが該当します。実際の金額が確定したら、速やかに本来の勘定へ振り替えます。なお、仕訳の具体例は下記の通りです。

従業員が出張するため、現金5万円を仮払いした。

借方金額貸方金額
仮払金50,000現金50,000

出張から戻り、精算した。宿泊交通費が2万円、セミナー参加費1万円、残金2万円。

借方金額貸方金額
旅費交通費
教育訓練費
現金
20,000
10,000
20,000
仮払金50,000

仮払金は、放置すると使途不明金になりやすいので注意が必要です。決算で仮払金が残っていると税務調査で指摘されたり、融資を受けている金融機関からも内容について問われたりすることがあります。仮払金は毎月チェックし、当期内でゼロにするのが正しい経理処理と言えるでしょう。

建設仮勘定

建設仮勘定とは、建物や機械装置など有形固定資産の建設中に発生した費用を、一時的に処理する勘定科目です。工事が完成して「事業の用に供した」タイミングで、正しい固定資産の勘定科目へ振り替えます。

工事は長期に渡ることがあり、手付金として一部工事代金を前払いするかもしれません。この場合、固定資産取得に対する前払いなので、前払金ではなく建設仮勘定へ計上します。たとえば製品の製造に使用する機械装置を300万円で発注し、手付金として50万円を小切手で支払った場合は以下のようになります。

借方金額貸方金額
建設仮勘定500,000当座預金500,000

まとめ

前払金勘定を使用する具体例や、混同しやすい勘定科目について解説しました。商品やサービスを受ける前に、一部または全部の費用を支払うことがあります。この際、使用する勘定科目は、内容によって多様だということがご理解いただけたのではないでしょうか。勘定科目の使い方を正しく理解し、適切な仕訳ができるようにしてください。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 柴藤 唯人

柴藤唯人様

大手製造業(鉄鋼メーカー)の経理財務担当として勤務。財務系は固定資産管理、棚卸資産管理、一般会計を担当。また、原価系は原価計算、月次、半期予算、中期計画、コスト分析、損益分析を経験する。管理職昇進後は会計実務からは離れて、公認会計士対応や内部統制、原価は全体のコスト総括や損益総括を担当。工場だけではなく営業へも情報を提供するなど、販売戦略にもかかわる。日商簿記1・2級保有。