個別原価計算とは?総合原価計算との違いや必要な書類、計算の流れ

個別原価計算とは?総合原価計算との違いや必要な書類、計算の流れ

個別原価計算とは、個別の商品・サービスについて製造原価を計算する原価計算方法の一つです。発注された製品を1単位ごとに個別に生産するときに、製造した数だけの原価を計算するため、製造業などで個別受注生産を行う場合に用いられます。本記事では、個別原価計算の考え方と実際の計算方法について具体的に解説していきます。個別原価計算をする際にはどのような書類が必要であるか、その書類を活用するための手順についても合わせて解説するのでぜひ参考にしてください。    

なお、原価計算の概要や個別原価計算以外の計算方法などについては、以下の記事を参考にしてください。

経理プラス:原価計算とは?目的・種類・計算方法・分析の仕方をわかりやすく解説

個別原価計算の基礎知識

ここではまず、個別原価計算について知っておくべき基礎知識について説明していきます。

個別原価計算とは?

個別原価計算は、製品やプロジェクトごとに、それぞれ別個に原価を計算する方法です。個別計算は特に、製造する製品や提供するサービスの仕様が顧客ごとに異なる業種や企業に最適な原価計算の方式です。具体的な事例としては、製造業やシステム開発の分野が挙げられます。これらの業界では、受注生産やロット生産を用いて多品種の製品を少量生産することが一般的です。さらに、コンサルティングのように、プロジェクトごとに提供するサービスの仕様が異なる業種や企業でも個別原価計算が有効に機能します。個別原価計算により、それぞれの製品やサービスの原価を正確に計算することが可能となります。

個別原価計算のメリット・デメリット

次に、個別原価計算にはどのようなメリット・デメリットがあるかを解説していきましょう。

個別原価計算の主なメリット

まずは、個別原価計算の主なメリットについて解説していきます。

  1. 損益分岐点の明確化
    個別原価計算を行うことによって、利益や損失の状況をリアルタイムに把握できます。これは、現状に近い原価を計算できるため、損益分岐点をより明確に特定しやすくなるからです。
  2. 早期の問題察知と対策
    赤字が出そうな製品やサービスを早期に特定し、適切な対策を講じることが可能です。これは、各製品やサービスごとに具体的な原価を知ることができるため、問題が発生しやすい領域を迅速に特定できるためです。
  3. 製品・サービスの改善
    個々の製品やサービスごとに原価を把握できるため、どの製品やサービスを改善すれば利益を増やすことができるかを明確に判断できます。
  4. 価格設定の適正化
    過去のデータを参考にして、新しい類似製品やサービスの適切な価格設定が行いやすくなります。これは、正確な原価見積もりに基づいて価格を決定できるためです。

個別原価計算の主なデメリット

さらに、個別原価計算の主なデメリットについて解説していきましょう。

  1. 計算作業の手間と時間
  2. 個別原価計算では、製品・サービスごとにそれぞれ計算を行う必要があります。これにより、原価の算出に手間と時間がかかり、結果として人件費などのコストが増加するリスクがあります。

  3. 必要書類の準備
  4. 個別原価計算を行うためには、製造指図書など、特定の必要書類の準備が必須です。これらの書類は、製品ごとに詳細な仕様や原価計算の基準を定めるために重要であり、その準備には追加の労力や時間が必要となります。

このように、個別原価計算は、特定の業種や生産方式において非常に有効な原価計算手法ですが、その実施には適切な計画とリソースの配分が必要です。個別原価計算を用いることで、より正確な原価管理と効率的な製品・サービスの改善が可能になりますが、それには計算作業の手間やコスト、必要書類の準備などのデメリットも考慮する必要があります。

個別原価計算と総合原価計算との違い

個別原価計算と総合原価計算は、原価計算の方法における二つの主要なアプローチです。これらの計算方法は、特に生産形態や業種によって適用することが推奨されます。以下に、これらの違いについて詳しく解説します。

総合原価計算は、一定期間内に生産された製品の原価をまとめて計算する方式です。この方法は、主に仕様が同じ製品を大量に生産する業種や企業に向いています。例えば、食品製造業や自動車産業、鉄鋼業などが該当します。総合原価計算では、製品の生産コストを一定期間、例えば1か月間の総生産量で割ることにより、製品1単位あたりの平均原価を算出します。

一方で、個別原価計算は、製品やプロジェクトごとに個別に原価を計算する方法です。このアプローチは、特に製品やサービスの仕様が顧客ごとに異なる業種や企業に適しています。具体的な例としては、受注生産方式や多品種少量生産方式を採用している製造業、システム開発、コンサルティング業などが挙げられます。個別原価計算では、それぞれの製品やプロジェクトの原価を詳細に算出し、正確な原価情報を提供します。

このように、総合原価計算と個別原価計算の主な違いは、計算対象の範囲と方法にあります。総合原価計算では全体の平均値を計算するのに対し、個別原価計算では各製品やサービスの特定の原価を計算します。これにより、総合原価計算は計算作業の効率化を図ることができますが、一方で個別原価計算はより詳細で正確な原価情報を提供することが可能です。

結論として、生産形態や業種に応じてこれらの原価計算方法を適切に選択することが、効率的かつ正確な原価管理を実現する鍵です。大量生産される同一仕様の製品には総合原価計算が、顧客ごとに仕様が異なる製品やサービスには個別原価計算が適しています。

個別原価計算と総合原価計算の違いを表にまとめると次のようになります。

個別原価計算総合原価計算
定義製品やプロジェクトごとに、それぞれ個別に原価を計算する方法一定期間内に生産した製品の原価をまとめて計算する方式
適用される業種・企業製造業、システム開発、コンサルティング業など、製品やサービスの仕様が異なる業種・企業仕様が同じ製品を大量生産する業種・企業、例えば食品製造業、自動車産業、鉄鋼業など
生産形態受注生産やロット生産など、多品種を少量生産する方式同一製品を大量に生産する方式
計算方法各製品やプロジェクトの直接費と間接費を個別に計算。個々の製品やサービスに直接関連するコストを把握一定期間の総製造原価を総生産量で割り、製品1単位あたりの平均原価を算出
メリット・実際の原価に近い数字を導き出せる
・利益や損失の状況をリアルタイムで把握可能
・製品・サービスごとに原価把握で改善しやすい
・原価計算の手間と時間を削減できる
・業務効率化が図れる
デメリット・原価の算出に手間と時間がかかる
・人件費やコストの増加
・製造指図書などの準備が必要
・期末まで正確な原価把握が難しい
・製品別の詳細な原価を知ることが困難

個別原価計算を行う際に必要な書類

個別原価計算を行う際には、いくつかの重要な書類が必要です。これらの書類は、製造プロセスを明確にし、製品ごとの原価を正確に計算するために欠かせません。

製造指図書

製造指図書は、主に製造業で使用される重要な書類です。製造指図書は、顧客からの注文に基づいて作成され、製造作業の具体的な命令を記載します。製造指図書には、注文主や製造される製品の詳細情報が含まれます。これにより、製造する製品の仕様や要件が明確になり、製造過程を効率的かつ正確に管理することができます。また、製造指図書には一意の番号が付けられ、これにより他の製品との区別や追跡が容易になります。この番号システムにより、製造プロセスの進行管理が効率的に行われるようになっています。

原価計算票

原価計算票は、発行された製造指図書ごとに作成される計算書です。原価計算票には、製品の原価が詳細に記載されます。原価計算票は、製品の材料費、労務費、経費などの費用を分析し、製品の総原価を算出するのに使用されます。重要な点は、原価計算票が製造指図書と同じ番号で管理されることです。これにより、製品ごとの原価計算の一貫性が保たれ、追跡が容易になります。管理の際には、これらの原価計算票は原価元帳と呼ばれる帳簿にファイルされ、整理された形で保管されます。

原価計算表

原価計算表は、原価元帳にファイルされている複数の原価計算票を1枚の表にまとめた文書です。この表では、製品ごとの製造費用が費目別に記載されます。原価計算表により、製品ごとの総原価や各費目にかかる費用が一目でわかり、財務分析や予算計画の策定に大きな役割を果たします。

これらの書類は、個別原価計算を行う上で欠かせないツールです。それぞれの文書が製造プロセスの異なる段階に対応し、製品ごとの原価を正確に追跡し、分析するための基盤を提供します。

個別原価計算の流れ

個別原価計算のプロセスは、費用の正確な追跡と製品ごとの原価算出に重点を置いています。以下では、この計算プロセスを詳細に説明します。

Step1.費目別に原価を集計する

このステップでは、製造にかかるすべての費用を費目別に分類します。具体的には、材料費、労務費、経費などの各種費用を明確に区別します。この分類作業は、原価計算の精度を高めるために重要です。分類された費用は、次に「直接費」と「間接費」に分けられます。直接費は、製品製造に直接関連する費用(例:特定製品の材料費や労務費)で、間接費は製品製造には直接関連しないが、業務遂行に必要な費用(例:工場の光熱費や管理部門の経費)です。この区別により、各製品の正確な原価を算出する基盤が築かれます。

Step2.間接費を部門別に振り分ける

間接費を部門別に振り分ける作業では、費目別原価計算で割り出された間接費を、関連する各部門に配分します。これにより、間接費がどの部門でどの程度使用されているかを把握できます。この段階は、間接費の適正な管理と、各部門のコスト責任を明確にするために重要です。

Step3.製品ごとに原価の計算を行う

このステップでは、直接費と各製造部門に振り分けられた間接費を、製品ごとに適切に振り分けます。この分配作業を通じて、各製品の実際の原価を算出します。ここでの原価計算は、各製品の利益率分析や価格設定の基準となります。

Step4.完成品原価を計算する

製品ごとの原価が算出された後、完成品原価の計算が行われます。これは、製造された製品の全体的な原価を算出し、在庫管理や財務報告のために使用されます。完成品原価には、製造過程で発生したすべての直接費と間接費が含まれます。

Step5.売上原価を計算する

最終段階では、製品が販売された際の売上原価を計算します。この売上原価は、販売された製品の製造に直接かかった費用と、販売に関連する間接費を合算したものです。売上原価の計算は、利益分析や財務報告において重要な役割を果たします。

このプロセスを通じて、個別原価計算は、製品ごとの正確な原価を明らかにし、より有効な価格設定や利益管理を可能にします。また、財務報告の透明性と精度を向上させ、企業経営の意思決定に役立つ詳細な情報を提供します。

受注生産企業において個別原価計算は欠かせない

個別原価計算は、製品やプロジェクトごとに原価を計算する方法です。これは、特に製品やサービスの仕様が顧客ごとに異なる業種、例えば製造業、システム開発、コンサルティング業などに適しています。その主な特徴は、製品ごとに直接費と間接費を分けて計算することにあります。これに対し、総合原価計算は、一定期間内に生産された製品の総原価をまとめて計算する方法で、仕様が同じ製品を大量に生産する業種に適しています。

個別原価計算のプロセスは、費目別に原価を集計し、間接費を部門別に振り分け、製品ごとに原価の計算を行い、最終的に完成品原価と売上原価を算出するという流れで進行します。この計算方法は、製品ごとの原価を正確に把握することを可能にし、価格設定や利益管理において重要な役割を果たします。

計算を行うためには、製造指図書、原価計算票、原価計算表などの書類が必要です。これらの書類は、製品ごとの費用の詳細を記録し、原価計算の正確性と透明性を確保するために不可欠です。製造指図書は製造命令の詳細を記載し、原価計算票は製品の原価を詳細に記録します。最後に、原価計算表は、複数の原価計算票を1枚にまとめたもので、費目別に製品ごとの製造費用を記載します。

個別原価計算は、製品ごとの正確な原価情報を提供するため、特に多品種少量生産方式や個別受注生産方式を採用する企業において、効果的な価格設定、利益分析、財務報告を実現するための重要なツールであると言えるでしょう。

個別原価計算についてのQ&A

最後に、個別原価計算についてよくあるQ&Aに回答していきましょう。

Q1.そもそも原価計算の目的は?

原価計算にはいくつかの目的があります。具体的には、以下の5つの目的が特に重要です。

  1. 財務諸表目的:これは、企業の外部ステークホルダーに報告するための財務会計に関連しています。財務諸表を通じて、企業の財務状況、業績、キャッシュフローなどを公表し、投資家や債権者に情報を提供します。
  2. 価格計算目的:製品やサービスの適切な価格を設定するために原価計算を行います。この目的は、市場での競争力を維持し、適正な利益を確保するために重要です。
  3. 原価管理目的:これは、コストの効率的な管理と削減を目的としています。原価管理を通じて、無駄なコストを削減し、生産効率を向上させます。
  4. 予算編成目的:企業の将来の活動に関連する予算を作成するために原価情報を活用します。これにより、資源の配分や業務の優先順位付けが可能になります。
  5. 経営計画目的:長期的な経営戦略や計画を策定する際に原価情報が用いられます。これにより、企業の未来の方向性や成長戦略を定めます。

財務諸表目的は主に社外向けの報告のために用いられるのに対し、残りの4つは主に企業内部の状態を把握し、管理するための管理会計に関連しています。

Q2.個別原価計算における消費税の処理はどうすれば良い?

原価計算においては、直接費・間接費などの費用を支払った際に消費税の支払いが行われています。このとき、税抜き方式で消費税を支払っているケースと、税込み方式で消費税を支払っている場合は、仕訳処理が異なります。

製品を製造している企業が、原材料(標準税率10%が適用されるもの)を10,000円(税抜き)で掛仕入した場合の具体的な仕訳は次のとおりです。

  1. 税抜経理方式
借方金額貸方金額
仕入10,000円買掛金11,000円
仮払消費税等1,000円
  1. 税込経理方式
    (1) 仕入時
借方金額貸方金額
仕入11,000円買掛金11,000円

Q3.個別原価計算のほかに原価計算の方法はある?

個別原価計算のほかにも原価計算の方法は存在します。最も一般的な別の方法は、前述した総合原価計算です。総合原価計算は、一定期間に生産された製品の総原価をまとめて計算する方法で、大量生産を行う業種や企業に適しています。これ以外にも、標準原価計算や変動原価計算など、さまざまな原価計算方法があり、それぞれの企業の生産形態や管理のニーズに応じて選択されます。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 税理士 宮川 真一

税理士 宮川 真一さま

税理士法人みらいサクセスパートナーズ 代表 岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上。 現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティング、税務対応を行っている。 また、事業会社の財務経理を担当し、会計・税務を軸にいくつかの会社の取締役・監査役にも従事。 【保有資格】 税理士、CFP®

税理士法人みらいサクセスパートナーズ