負債比率とは?計算方法や業種別の適正水準、改善方法を解説

負債比率とは?計算方法や業種別の適正水準、改善方法を解説

負債比率とは、自己資本に対する負債の割合のことです。負債比率が低いほど借入金への依存度が少ないと言え、100%以下であれば負債を自己資本で全てカバー出来ています。

負債比率の目安は100~150%と考えられていますが、たとえば小売業や宿泊飲食業の業界平均は200%を超えています。業種によっては一概に負債比率が高いことが悪いとは言えません。

ここでは負債比率の業界別平均値や計算の仕方、改善方法などを通して負債比率の見方について解説します。

負債比率とは

負債比率とは資本の安定性を測る分析指標の一つで、低いほど財務的に安定していると言えます。貸借対照表の右上に記載される負債は、買掛金などの買入債務と借入金などの他人資本によって構成されています。これらの負債は、当然に返済義務があり他人資本には金利負担が発生します。負債比率は負債(流動負債・固定負債)と純資産(自己資本)を比較し、自己資本で負債をどれくらいカバーできているかを見る指標です。

他に、資本の安定性を測る代表的な指標としては有利子負債比率があります。こちらは、利息を付けて返済する義務のある社債や借入金と純資産を比較します。分子に買入債務を含みませんので、負債比率より%は低くなります。有利子負債比率の詳しい解説は下記リンクを参照ください。

経理プラス:有利子負債とは?負債との違いや計算方法を解説!

負債比率の計算方法と目安

負債比率の計算方法は下記の通りです。

負債比率=負債÷自己資本(純資産)×100%

100%以下であれば負債を自己資本で全て担保できており、債務の返済能力が高く財務的に安定していると言えるでしょう。負債比率の目安は概ね100~150%であれば適性となりますが、業種や企業規模、企業の成長フェーズによって異なります。

たとえば、スタートアップや売上が急速に伸びている企業にとっては、銀行等から積極的に借り入れて事業を大きくすることは理にかなっています。負債比率は悪化しますが、財務レバレッジを利かせて収益を増加させることは事業戦略として正しいと言えるでしょう。

実際の計算例、業界別の平均値

負債比率の計算例についてご説明します。たとえば、負債が3億円、自己資本が2億円の場合、3(負債)÷2(自己資本)×100で負債比率は150%と計算します。業界別の負債比率の平均値は下記の通りとなり、負債と純資産の額は各業界1社あたりの平均値です。

  • 建設業:128%(負債1.2億円、純資産0.9億円)
  • 製造業:117%(負債2.9億円、純資産2.5億円)
  • 情報通信業:93%(負債1.2億円、純資産1.3億円)
  • 小売業:218%(負債1.1億円、純資産0.5億円)
  • 不動産業:209%(負債3.5億円、純資産1.7億円)
  • 宿泊飲食業:615%(負債1.1億円、純資産0.2億円)

全体では1社あたり負債2.0億円、純資産1.3億円となり、負債比率は155%となります。

参考:中小企業実態基本調査/令和3年確報(令和2年度決算実績)

インターネット付随サービスや情報サービスといったコンテンツビジネスがメインの情報通信業で100%を下回っていますが、それ以外の業種では100%を上回っています。業界により事情はさまざまですが、多額の設備投資が必要だったり、利益率の低かったりする業態では負債比率が高くなる傾向があると言えます。

負債比率が高いことによる問題点

負債比率が高いことによる問題点は、2つあると考えられます。1つ目は、金利負担によるコスト競争力の低下です。借入金などの他人資本は、たとえ不景気であっても一定の金利負担が生じます。競合他社と仕入れ価格や製造原価が同じでも、負債の金利負担によって収益力に差が生じます。

2つ目は、設備投資や新製品への開発投資が十分行えないことです。自己資本と異なり、他人資本は返済義務があります。資金回収に長期間かかる設備投資や新製品開発といったリスクが伴う戦略的投資については、負債比率が高いと消極的になりがちです。

現在は低金利が継続していますが、金利がいつ上がるかは誰にもわかりません。低成長が続く日本では、安定的な資本の基盤を持つことは重要と言えるでしょう。

負債比率の改善方法

負債比率の改善方法は、分子である負債を減らす方法と、分母である自己資本を増やす方法の2通りがあります。

負債を減らす方法は、買入債務の支払サイトをのばす事が考えられますが、相手方の同意が必要です。また、借入金を返済することでも減少しますが、原資を準備する必要がありどちらも容易ではありません。そのため、負債比率の改善は分母である自己資本を増やす対策が中心となります。

自己資本は、資本金と資本剰余金、利益剰余金によって構成されます。資本金や資本剰余金を増やす方法としては、増資や株式の公開があります。具体的に、メリットとして挙げられるのは以下のような内容です。

  • 一気に資金調達が可能であり財務状況を改善させることができる
  • 上場企業として知名度や信用が上がる など

一方、次のような点はデメリットとなります。

  • 決算発表などの事務負荷が増える
  • 株式の買占めにより経営権が奪われるリスクがある
  • 株主から配当を期待され、内部留保が減少する可能性がある

負債比率を改善する王道は利益剰余金、つまり内部留保を増加させることです。税引後当期純利益から配当金等が支払われた残りが、毎年利益剰余金として加算されていきます。日本企業全体の平均では純資産のうち、80%以上は利益剰余金です。単年度では大きく改善しないので、自己資本の増加は長期的な計画に基づいて進めることが大切になります。

経理プラス:内部留保が企業を守る!?コロナ禍で注目される理由とは

まとめ

負債比率の計算方法や業界別の平均値、改善方法について解説しました。負債比率は業界別の事情によりさまざまです。また、財務レバレッジの観点からは、負債比率が高いことが一概に悪いとは言えません。

しかし、基本的な考え方としては、返済義務や金利が発生する負債よりも自己資本が多い方が企業の財務体質は安定します。大規模な投資は長期計画に基づいて実施されますし、M&Aといった戦略投資では急に資金が必要となる場合があります。こういったケースに備えて、平時は負債比率を低くし安定的な状況を作ることが大切と言えるでしょう。業界の平均値を参考にしながら、長期的な視点で負債比率の改善を考えてみてください。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 柴藤 唯人

柴藤唯人様

大手製造業(鉄鋼メーカー)の経理財務担当として勤務。財務系は固定資産管理、棚卸資産管理、一般会計を担当。また、原価系は原価計算、月次、半期予算、中期計画、コスト分析、損益分析を経験する。管理職昇進後は会計実務からは離れて、公認会計士対応や内部統制、原価は全体のコスト総括や損益総括を担当。工場だけではなく営業へも情報を提供するなど、販売戦略にもかかわる。日商簿記1・2級保有。