【税理士監修】粉飾決算は不正行為!知らなかった…では済まされない必須知識
上場企業が粉飾決算をする理由と中小企業が粉飾決算をする理由は大きく異なります。一般的な粉飾決算のイメージは、上場企業が売上げや利益の水増しをして、利益が出ているように見せかけることでしょう。
一方、中小企業で多いものは、逆粉飾決算と呼ばれ費用を水増しして売上げや利益を少なく見せかける事例です。この記事では、粉飾決算と逆粉飾決算について、その背景も含めて解説します。
粉飾決算とは
そもそも「粉飾決算」とは何でしょうか。
一般的に「粉飾決算」とは、不正な会計処理によって、故意に貸借対照表や損益計算書、いわゆる決算書を操作し、企業の財務状況や経営状態を実際よりも良く見せることです。
極端な例では、虚偽記載をして赤字を黒字にするようなことです。利益が増えれば、税金を多く支払わないといけませんが、そこまでして、粉飾決算をする理由とは何でしょうか。
粉飾決算の背景
同じ法人でも、上場企業と中小企業とでは粉飾決算が起こる理由が異なりますので、それぞれの背景などを分けて見てみましょう。
上場企業の粉飾決算
上場企業は、株主に常にプレッシャーを受け続けています。会社業績をよくし、企業価値を上げ、配当金をたくさん出すように株主から求められています。
そのため、株主など外部から責任を厳しく追及されることを嫌がって、粉飾決算を行ったり、また経営者は、会社業績を良くするように現場にプレッシャーをかけ、一部の部門や支店が社内での成績維持のために手を染めるケースもあります。
株主からのプレッシャーに負けて、配当財源がないにもかかわらず、粉飾決算で見かけ上の財源があるように見せかけて、株主へ違法な配当をするようなことを、いわゆる、蛸配当といいます。
中小企業の粉飾決算
一方、中小企業は株主からのプレッシャーは上場企業ほどありません。株主は経営者本人であることも多く、配当しないことも珍しくありません。
また、中小企業では、監査法人を設けていないことも、決算書の操作がしやすい要因の一つといえます。
会社法では、監査役を設置しなくともよい条件として、「株式譲渡制限会社である」「取締役会を設置していない」「取締役会を設置して会計参与を置いている」などがあります。このような条件に当てはまる中小企業が圧倒的に多いため、監査法人を設けていない中小企業が多いのです。
一方で中小企業が一番プレッシャーを感じるのは、銀行です。中小企業は大企業と違って、資金調達の手段が限られています。ほぼ銀行借入に依存しているといっても過言ではありません。
会社の経営状態が悪い状態が続きますと、銀行も借入条件を厳しくしたり、または新規の借入を停止することもあります。そのため、中小企業は、たとえ税金を多く払ってでも粉飾決算に手を染めるようになります。
売上高や利益が出ている中小企業が、金融機関から融資を得られやすいことは、一般的にも周知されていることでしょう。
また、建設業の場合は、銀行だけでなく、公共工事の入札ランクと関連する経営事項審査をとても気にします。経営事項審査は「経営状況」、「経営規模」、「技術力」、「その他の審査項目(社会性等)」を考慮し、数値化されます。そのため、「経営状況」を少しでも良くしようとする動機が生まれます。
粉飾決算のやり方は2つだけ
粉飾決算は、利益を上げることです。そのためにやることは「売上を上げる」か、「経費を減らす」かの2つの手法しかありません。その2つをどのように行っているのでしょうか。
売上を上げる
売上を上げるのには、翌期の売上を前倒しで計上するか、架空の売上を計上するかです。他に在庫を多くするという方法もあります。在庫が増えれば利益も増えます。
経費を減らす
本来経費として計上すべきものを繰り延べると利益が増えます。仕入や未払計上を先送りにしたり、すでに支払ってしまった経費を仮払金や貸付金などに振り替えたりします。
逆粉飾決算の場合
逆粉飾決算は、利益を少なくすることです。一般的な粉飾決算は利益を上げて会社業績を良く見せることを目的としていますが、逆粉飾決算は利益を少なくして納税額を減らすことを目的としています。次のような不正な手口が考えられます。
売上を計上しない
売上を計上しなければ、必然的に利益は少なくなります。一部の売上を意図的に翌年に繰り越すことや、売上自体を無いものとして扱い、裏帳簿で管理するなどです。一旦、売上計上し、架空の返品処理をする手法もあります。
経費を増やす
接待交際費や諸費交通費、役員報酬の水増しなど経費を増やし、利益を少なくする手法もよく見受けられます。仕入商品・製品を通常よりも高い原価にしたり、アルバイト給与の発生など人件費を増やしたりすることもあります。
粉飾決算を見破る方法
粉飾決算の兆候は貸借対処表に主に現れ、次の4つの勘定科目に注目するとわかります。
売掛金
通常、その会社の回収サイトは決まっています。月商の何か月分あるのが適正なのかを見積もり、通常よりも異常に多い場合は要注意です。
在庫
在庫の調整も粉飾決算ではよく見られます。在庫を増やすと原価率や粗利率にも影響し、急に粗利率がよくなった場合は要注意です。
買掛金・未払金
売掛金のケースとは逆で、仕入や経費を少なくして、利益を出す行為ですので、通常よりも少なくなっている場合は要注意です。
仮払金・貸付金
実際に支払ってしまった経費を、無理やり資産計上して、経費を減らして、利益を多くみせる方法ですので、これらの勘定科目の内容や金額に要注意となります。
また、上記以外ではキャッシュフロー計算書も粉飾決算を見破るには非常に重要な指標となっています。
粉飾決算はやめられない
粉飾決算に一度手を染めると、なかなか抜けられません。架空計上してしまった売上はいつまでも売掛金が残ってしまいます。
また、在庫も多く計上してもいずれ経費になり、在庫を増やし続けると永遠と増やし続けることになります。
粉飾決算に関わる厳しい罰則
粉飾決算を行った場合、民事責任に問われる可能性があります。
たとえば、会社法 第462条「違法配当の賠償」。
粉飾決算により違法に利益配当を行ったときは、取締役は連帯してこの違法に配当した利益を会社に賠償することになります。
会社法第 第429条「役員等の第三者に対する損害賠償責任」
決算書に虚偽の記載のために第三者に損害を生じたときは、取締役はこの第三者に対して連帯してその損害を賠償すべき責任を負うことになります。
また、民事責任とは別に蛸配当と行ったことにより、会社法第963条として、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金刑が科せられる可能性もあります。
まとめ
粉飾決算や逆粉飾決算をしたことがある経営者の中には、「いずれどこかで帳尻を合わすので、今だけだ」、と思っている人が少なくありません。しかし、粉飾決算や逆粉飾決算が明らかになってしまえば、即座に信用がなくなり、経営再建などできなくなります。
そもそも、決算書の大きな目的の一つとして、会社の業績を客観的に把握して、問題点を見つけ出し適切な経営改善の対策へと結びつけることが挙げられます。しかし、粉飾決算や逆粉飾決算を行ってしまうと、ますます会社の実態が見えなくなってしまうのです。業績に問題がある場合は、粉飾決算や逆粉飾決算に手を出してしまう前に決算書を税理士などの専門化に分析してもらうことを強くおすすめします。
もし、粉飾決算や逆粉飾決算が明らかになった場合、会社だけでなく、従業員や取引先にも迷惑をかけることは必至です。経理担当者様をはじめ経営に携わる皆さんは、百害あって一利なしと心得ておきましょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。