法人税等調整額とは?計算方法を分かりやすく解説

法人税等調整額とは?計算方法を分かりやすく解説

損益計算書に記載される「法人税等調整額」は、法人税等を適切に期間配分し、企業会計的に正しい当期純利益を計算するために計上します。あまり注目されることはありませんが、正確な当期純利益を算出するには必要な項目です。経理担当者は概略を理解し、仕訳ができるようになっておきましょう。この記事では、法人税等調整額の基本的な知識と仕訳事例について解説します。

法人税等調整額とは

損益計算書や貸借対照表といった決算書類は、企業会計をベースに当期純利益や資産状況等を計算します。一方、法人税等は税法に基づいて計算するため、企業会計の考え方と多少のズレが生じます。このズレを解消するために使用されるのが法人税等調整額です。

損益計算書内での法人税等調整額の考え方

科目考え方
売上高金融機関の預金利息、保有する国債、社債などの有価証券による利息
・・・・

※企業会計の考え方で計算
税引前当期純利益
法人税等
法人税等調整額※税法と企業会計のズレを調整
当期純利益※企業会計に沿った利益が計算される

税引前当期純利益までは、企業会計の考え方で計算されます。法人税等は利益に実行税率をかけて計算しますが、企業会計の利益と税法上の利益(課税所得)は違いが生じます。そのため、税引前当期純利益と法人税等が適切に対応しなくなってしまうでしょう。このズレを解消することを税効果会計と言います。

税効果会計の詳しい解説は、下記リンクをご参照ください。

経理プラス:税効果会計とは?目的と手順を仕訳方法と合わせて紹介

参考までに、「法人税等」に含まれる税金は法人税と法人住民税、法人事業税の3つです。時々の税制改正によって異なりますが、2022年現在の実行税率はおおよそ30%となっています。

経理プラス:法人税の計算とは?計算から申告までの流れを分かりやすく解説

法人税等調整額のメリット

法人税等調整額を計上するメリットは、法人税等を加減算することにより、企業会計として適切な当期純利益を計算することにあります。たとえば税引前当期純利益が100万円、実行税率が30%とした場合、法人税等は100万円×30%で30万円となるはずです。しかし、法人税等は税法によって計算されるので、これが40万円になることがあります。差の10万円が損金計上のタイミング差であるときは、税効果会計を適用し法人税等調整額10万円(費用減)を計上します。これによって税金が30万円となり、利益と税金が期間的に対応するのです。

一時差異と永久差異

企業会計の利益と税務会計の課税所得の差には、一時的な「一時差異」と永久的な「永久差異」があります。このうち、税効果会計が適用されるのは一時差異のみです。ここで、それぞれ詳しく見ていきましょう。

一時差異とは?

一時差異とは、収益や費用を認めるタイミングが会計と税務で異なるために発生する差異のことです。たとえば貸倒引当金について、会計では保有する売掛金などの債権に対して、回収不能となる金額をあらかじめ見積もって計上します。一方、税務上は未発生の損失に対して損金計上を認めていません。そのため、差異が生じるのです。これは、会計の費用計上が税務より早かったことが原因と言えるでしょう。実際に取引先が倒産などすれば、税務上も損金算入が認められ解消します。

このような将来の税金が増減する差を一時差異と言い、税効果会計の対象となります。将来の税金が減算するものが「将来減算一時差異」、加算するものが「将来加算一時差異」です。将来減算一時差異の場合、会計は費用計上したものの税務上が損金として認められず、その分だけ多くの税金を支払っているケースです。これは、一種の「税金の前払い」と言えるでしょう。将来減算一時差異はそのまま計上するのではなく、法定実行税率をかけて法人税等の影響額について計算します。

計算式は下記の通りです。

将来減算一時差異×法定実行税率=法人税等調整額

なお、発生時と解消時の仕訳は下記の通りです。

【将来減算一時差異の発生時】

借方金額貸方金額
繰延税金資産〇〇〇円法人税等調整額〇〇〇円

【将来減算一時差異の解消時】

借方金額貸方金額
法人税等調整額〇〇〇円繰延税金資産〇〇〇円

税金の「前払い」なので「資産」が計上される、と理解すると覚えやすいでしょう。

将来減算一時差異の例としては、貸倒引当金超過額、棚卸資産評価損、株式評価損、退職給付引当金、固定資産減価償却費超過額などが挙げられます。

これに対して将来加算一時差異は、当該一時差異が解消するときに、その期の税額が増加するもののこと。将来減算一時差異の反対であり、会計的には「税金の繰延」と言えます。法人税等調整額の計算は、同様に法定実行税率を掛けます。

計算式は下記の通りです。

将来加算一時差異×法定実行税率=法人税等調整額

発生時と解消時の仕訳は下記の通りです。

【将来加算一時差異発生時】

借方金額貸方金額
法人税等調整額〇〇〇円繰延税金負債〇〇〇円

【将来加算一時差異解消時】

借方金額貸方金額
繰延税金負債〇〇〇円法人税等調整額〇〇〇円

将来加算一時差異の例は、棚卸資産評価損容認、固定資産圧縮記帳積立金などです。

永久差異とは?

永久差異とは、会計上では収益や費用として計上されますが、課税所得には永久に益金や損金に算入されないものを言います。具体的には、受取配当金の益金不算入、寄付金や交際費の損金算入限度超過額などです。

たとえば受取配当金は、支払う会社の利益を元に計算されます。しかし、この利益は法人税等を差し引いたものです。すでに課税した配当金に対し、さらに受け取った側でも法人税等を課すことは二重課税にあたるため、受取配当金は益金不算入となっています。

これらの差異は、将来の税額を増減させる効果を持ちません。そのため、永久差異は税効果会計の対象外となります。

仕訳事例

次に仕訳の事例についてご紹介しましょう。実行税率は30%で計算します。

(例1)

貸倒引当金として50万円を計上したが、税務上の限度額を超える20万円について税効果会計を適用した。

借方金額貸方金額
繰延税金資産60,000円法人税等調整額60,000円

将来減算一時差異20万円に実行税率30%をかけた6万円を、繰延税金資産として計上します。

(例2)

例1の貸倒引当金超過額について、税務上の損金として容認された。

借方金額貸方金額
法人税等調整額60,000円繰延税金資産60,000円

税務上認められたので繰延税金資産を取り崩し、法人税等調整額を計上します。

(例3)

保有する有価証券について、評価益100万円を計上したが税務上は益金不算入。

借方金額貸方金額
その他有価証券100万円その他有価証券評価益70万円
繰延税金負債30万円

全部純資産直入法を採用している場合、法人税等調整額を計上せず繰延税金負債を計上します。

まとめ

法人税等調整額について、税効果会計や概要を説明しました。法人税等調整額を計上しても、実際に支払う法人税等には何も影響を与えません。会計と税で発生する差のうち、将来税額を増減させる効果がある項目が税効果会計の対象となります。少し複雑な論点ですが、上場企業では義務付けられていますので理解しておきましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 柴藤 唯人

柴藤唯人様

大手製造業(鉄鋼メーカー)の経理財務担当として勤務。財務系は固定資産管理、棚卸資産管理、一般会計を担当。また、原価系は原価計算、月次、半期予算、中期計画、コスト分析、損益分析を経験する。管理職昇進後は会計実務からは離れて、公認会計士対応や内部統制、原価は全体のコスト総括や損益総括を担当。工場だけではなく営業へも情報を提供するなど、販売戦略にもかかわる。日商簿記1・2級保有。