減損処理(減損会計)とは?仕訳処理の流れや計算方法を紹介
減損処理(減損会計)とは、固定資産から得られる収益がその固定資産の帳簿価額を下回ることが判明した場合、損失を計上する会計処理のことを指します。減損処理のフローには「兆候」「認識」「測定」と3つのステップがあり、個々の事情を見極めて判断する必要があります。減損処理の目的と共に、3つのステップがある理由や考え方をご説明します。
減損処理とは
減損処理は、企業が購入した固定資産(主に有形固定資産)の収益性が低下して投資額の回収が見込めなくなった場合、「資産の価値を減少させて損失を計上する」ことです。建物や機械装置といった固定資産への投資は、当然に投資金額以上のリターンを期待して行われます。期待通りの収益が上がれば良いのですが、市場環境の変化や技術革新による技術の陳腐化などによって、リターンが投資額を下回るケースもまれに発生します。この際、固定資産への投資の失敗が明らかになった時点で、速やかに減損処理を行わなくてはいけません。
減損処理を行う理由
減損処理を行う理由は投資家や債権者、従業員といったステークホルダーへ、正しく企業の情報を伝えることにあります。固定資産の収益性が低下し、企業が投資金額の回収が難しいと判断していても、減損処理を行わないと損益計算書に損失が計上されません。貸借対照表には回収見込みのない固定資産が計上し続けることになり、ステークホルダーにとって不利益が生じます。
減損処理は、固定資産の帳簿価額を実態に合わせて減額し、その差損を減損損失として損益計算書へ反映します。つまり減損処理によって、企業の正しい経営状況が決算書類へ反映されることになるのです。
減損会計の対象
減損会計の対象は貸借対照表で区分される「固定資産」です。そして固定資産は、さらに「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」に区分されます。各区分の内容を細かく見ていきましょう。
有形固定資産
企業が長期にわたって、営業活動のために使用する実態のある資産のこと。土地や建物、機械装置、車両、工具器具備品などが該当します。なお、貸借対照表にオンバランスされるリース資産や、建設途中の資産を管理する建設仮勘定も減損会計の適用範囲となります。
無形固定資産
物理的な形を持ちませんが、利用することで収益に貢献する権利などの資産です。ソフトウェア、特許権などの知的財産権、企業買収によって発生する「のれん」などが該当します。「のれん」は、あまり聞きなれない用語かもしれません。簡単に言うとM&Aにおける「買収金額と純資産の差額」であり、買収された企業の収益力やブランド力を表します。のれんについて、詳しくは下記リンクを参照ください。
経理プラス:【公認会計士執筆】のれんって何?会計初心者が知っておきたいポイントを解説
投資その他の資産
短期的な売買が目的ではない有価証券や債券です。上記の固定資産が減損会計の対象ですが、他の基準で減損に近いものが定められている場合はそちらが優先されます。
たとえば市場販売目的のソフトウェア製作費は、毎期見込み販売量を見直し費用計上する「研究開発費等の会計基準」に準ずるため減損会計の適用からは外れます。同様に、有価証券は時価を反映する「金融商品会計基準」がありますので、こちらも対象外となるのです。
有価証券の減損処理についてはこちらの記事で解説をしております。参考にご覧ください。
経理プラス:有価証券の減損処理のキホン 決算で慌てないための判断基準とは
減損処理のやり方、フロー
減損処理の実務は、まず資産を「グルーピング」し、兆候→認識→測定という3ステップを経て減損金額を算出します。
資産のグルーピング
通常、製品は1つの機械装置でのみ生産が完結されるわけではなく、工場全体や生産ラインによって作られます。したがって、減損の有無は個々の資産単位では行わず、一体となってキャッシュフローを生む単位にグループ化し判断することが必要です。投資に見合った収益が上がっているか判断する単位にまとめることを「資産のグルーピング」と言います。
1.減損の兆候の把握
「減損の兆候の把握」とは、減損を検討するか否かを判断するステップです。グルーピングした固定資産で、使用価値の低下といった兆し(兆候)がないか検討します。減損の兆候としては、下記の例が挙げられるでしょう。
- おおむね連続2期の営業損益が赤字
- 資産の価値が著しく低下する使用方法の変化(事業の廃止、再編、稼働率の低下など)
- 製品価格の急落、技術の陳腐化といった経営環境の著しい悪化
- 市場価格の著しい下落(主に不動産)
2.減損損失の認識の判定
「減損損失の認識の判定」とは、減損を実施するか否かを判定するステップです。グルーピングした固定資産が将来獲得する割引前将来キャッシュフローと帳簿価額を比較し、下回っていれば減損処理の必要性ありと判断。将来キャッシュフローは、資産の使用によるキャッシュフローと資産の売却によるキャッシュフローを合算します。
3.減損損失の測定
減損損失を認識した場合、減損する金額を計算(測定)します。帳簿価額を回収可能額まで減額し、損失を計上します。
回収可能額とは、該当する資産グループを売却して得られる金額(正味売却価額)と、使用することによって得られる金額(使用価値)を割引計算した現在価値のどちらか高い方です。
割引計算とは、将来得られるキャッシュを利息で割り戻して、現在受け取るとしたらいくらになるのかを計算すること。割引率は資金調達コスト(WACC)など合理的なものを使用します。
「兆候」と「認識」は似たようなステップですが、それぞれのステップを踏むには理由があります。たとえば新規事業の場合、数年間にわたり赤字が継続することがあり得るでしょう。しかし、それが計画の範囲内であれば減損対象からは外れます。兆候と認識のステップを経ることでこうした事情を勘案し、減損の必要性を正しく判断する効果があるのです。また、測定まで行う案件を絞り込むことで事務負荷を減らす効果もあります。
減損処理の仕訳方法
減損処理の仕訳方法には、減損金額を取得額から直接控除する「直接控除形式」と減損損失累計額を使用する「間接控除形式」の2つがあります。直接控除が原則とされていますが、間接控除も容認されています。
・減損処理の直接控除方式
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
減損損失 | 600 | 建物 | 300 | |
機械装置 | 200 | |||
車両 | 100 |
建物、機械装置、車両の取得原価を直接マイナスします。なお、減損損失は損益計算書の特別損失に表示します。
・減損処理の間接控除方式
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
減損損失 | 600 | 減損損失累計額 | 600 |
減損損失累計額を計上し、取得額からは減額しません。減損損失累計額を減価償却累計額に含める表示も可能です。
減価償却費との処理方法の違いについては、下記を参照ください。
経理プラス:減価償却累計額と減価償却 同じ「減価」でも勘定科目や仕訳は違う?
まとめ
減損処理は固定資産への投資が失敗した事実を決算書へ反映し、ステークホルダーへ正しい情報を伝えることが目的です。減損処理のステップ、そして考え方を正しく理解して、適性に処理できるようにしましょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。