減資で得られる税務メリットと信用力低下リスクの回避策

減資で得られる税務メリットと信用力低下リスクの回避策

「減資」という言葉を聞くと、「会社規模を縮小するのかな?」、「よく分からないけど業績が悪いのだろう」など、ネガティブな印象をもってしまうことが多いのではないでしょうか。
実務では、会社にとってネガティブなことがあるか否かによらず、メリットやデメリットに着目して、さまざまな目的で、多くの会社に利用されています。
本稿では、減資の主なメリットとデメリットの内容、またメリットを享受しながらデメリットを防ぐ方法を一部ご紹介いたします。

減資のメリット

減資の目的といえば「株主へお金を返すのかな?」と思うかもしれませんが、減資をする目的のほとんどは「累積赤字の補てん」と「節税」です。

累積赤字の補てん

累積赤字の補てんとは、貸借対照表の資本金と繰越欠損金を相殺することです。累積赤字を補てんする理由は主に2つあり、将来の配当原資を確保しやすくすることと、単に自社の貸借対照表の見た目を整えることです。前者について、たとえば、新規上場企業が上場前に創業以来累積された繰越欠損金と資本金を相殺することにより、上場後の配当原資を確保しやすくすることがあります。後者について、会社の貸借対照表は上場・非上場に関係なく、銀行や取引先へ開示されることがありますが、そのときに繰越欠損金が多額にあると会社の安定性に疑義を持たれてしまう可能性があるので、貸借対照表の見た目を整えるために繰越欠損金と資本金を相殺する場合があります。

節税

税法では、資本金の金額いかんによって課税区分が異なり、課される税金の金額が変わることがあります。特に、資本金1億円超から資本金1億円以下になると税法が定める大企業から中小企業になり、数百万円から数億円もの税務メリットが得られることがあります。

詳しくは、【経理ニュース速報】シャープの大幅減資の「経理担当者が押さえておきたい資本金についてのポイント」をご参照ください。

減資のデメリット

会社財産の流出を伴う有償減資の場合は、単に減資した分、会社財産が減少するというデメリットがありますが、会社財産の流出を伴わない無償減資の場合、減資によるデメリットは会社の「信用力低下リスク」の1点に絞られます。

本来、会社の信用力は資本金の大きさに影響されないはずです。資本金とはあくまで株主から出資された金額であり、その後の毎年の損益により会社財産は大きく増加したり目減りしたりするからです。たとえば、国内最大級の企業調査機関である帝国データバンクは、会社の評価基準として、業歴の長さ、企業財務の安定性、経営規模、損益状況、資金現況、経営者の人物像、企業活力などを設けていますが、資本金の大きさという項目はありません。

しかしながら、特に詳細な情報開示がされていない未上場会社について、会社の信用力を判断するにあたり、まずは資本金の金額を見るという人が少なくありません。なぜなら、ほとんど全ての会社はホームページや会社案内等にて資本金の金額を開示していますが、売上規模や会社財産の状況を細かく開示している未上場会社は稀だからです。評価する側は資本金の金額から会社の信用力を察するしかないことが少なくないのです。

そのため、無償とはいえ減資をして資本金の金額が減少すると、「会社の信用力が低い」と判断する人が相対的に増えてしまうというリスクが発生します。

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税務メリットを得ながら、信用力低下というデメリットを防ぐには

前述のとおり、ほとんど全ての会社がホームページや会社案内等にて資本金の金額を開示していますが、最近は「資本金:〇〇百万円(資本準備金を含む)」という表記をしている会社が多くなってきました。理由は、資本金のみの金額を開示するより、資本金と資本準備金の合計金額を開示した方が、会社を大きく見せることができるからではないかと推測しています。また、資本金と資本準備金は同じ株主から出資された金額であり、会社法上、会計上、税務上はこの2つを区別していますが、本質的にはほとんど同じものです。資本金のみの金額を開示するより、資本金と資本準備金の合計金額を開示する方が合理的という考え方も一理あります。

一方で、税務上は形式的に資本金の金額のみにより課税区分が決められます。たとえば、株主からの出資金額が同じ2億円の会社が2社あったとして、A社(資本金2億円)は大企業に区分され相対的に大きな税金が課されますが、B社(資本金1億円、資本準備金1億円)は中小企業に区分され相対的に小さな税金しか課されません。

以上よりいえることは、会社ホームページや会社案内等で資本金と資本準備金の合計金額を開示している資本金1億円超の会社が、資本金を1億円以下まで無償減資して資本準備金に振り替えることにより、信用力の低下リスクを低くおさえつつ、税務メリットを享受できるのです。

最後に

減資のメリットの1つとして節税をご紹介しましたが、節税のみを目的とした減資は「税制の悪用」として社会から批判を浴びる可能性がありますし、納税を社会的責任の1つとして担っている企業がとるべき選択肢ではありません。

減資は、株主、債権者、税務当局その他利害関係者へ合理的に説明できる理由や目的がある場合にのみ実施するようにしましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 堀 直之

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2007年4月、大和証券SMBC株式会社(現 大和証券株式会社)に入社し、IPO・M&A等のアドバイザリーを担当する投資銀行部門にて、主に製造業セクターの事業法人への財務アドバイザリー業務に携わる。 2012年3月、株式会社アイスタイルに入社し、経理業務のほか、海外子会社の設立・管理、M&Aその他投資業務、マザーズから東証一部への市場変更等の幅広い業務に携わる。2013年7月、株式会社もしもに入社し、取締役として主に経営企画・管理部門を統括。