法人税は累進課税を導入している?税率と具体的な計算方法

法人税は累進課税を導入している?税率と具体的な計算方法

経理部門で仕事をする人は、日々の業務で税の制度について意識することが多いと思います。税は、私たちの暮らしを支えるために必要不可欠なものですが、「わかったつもり」になっている事柄も多いのではないでしょうか。

「累進課税」という言葉の意味もその一つです。私たちが扱う法人税は、累進課税の原則に従っているのか、答えられる人は意外に少ないかもしれません。この記事では、法人税と累進課税の関係について明確にし、その概要を簡潔に解説します。

経理プラス:法人税の計算はどう行う?算出する流れと計算式、納税の注意点

法人税と累進課税の基礎知識

まず、法人税とは何か、累進課税とはどういうことかについてしっかりと確認していきましょう。

法人税は、企業が一定期間内に得た所得の中から国に納める税金のことを指します。所得とは、企業の収益(益金)から費用(損金)を差し引いたものです。法人税は、企業の種類や規模に関係なく、株式会社、有限会社、医療法人、企業組合、監査法人などの普通法人や、農業協同組合、信用金庫などの協同組合などに広く課されます。

一方で、利益の分配を目的とせず、公共性の高い事業を行う法人には課されません。公共性の高い法人とは、公益社団法人や非営利型法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人などです。マンション管理組合、PTAなどの人格のない社団などは法人税が課されないケースがあります。また、公共法人に法人税が課税されることはありません。

法人税は、経済活動において法人が占める割合が大きいため、法人からも公的サービスの費用を賄うための負担を求めるべきであるとの考えで成立・発展してきました。日本でも諸外国においても、政府の歳入として大きな地位を占めており、個人の所得税と並んで、重要な財政資源とされています。

累進課税とは?

累進課税は、納税者の所得が増加するにつれて税率も段階的に上昇する課税方式です。この制度の主旨は、より高い所得を得ている個人や法人から、相対的に多くの税金を徴収することにあり、税の公平性を高めることを目的としています。

累進課税は主に所得税、相続税、贈与税に見られる特徴であり、所得の少ない者への税負担軽減と、所得の多い者からの適切な税負担を求める社会的合意に基づいています。この課税方式は、所得格差の是正や社会保障制度の充実に寄与するとされており、経済的公平性の観点から多くの国で採用されている税制です。

これに対し、前段で説明した法人税は所得に対して基本的に一定の税率が課される、比例課税が用いられています。

法人税は累進課税?

前段の最後で述べた通り、法人税は累進課税ではなく比例課税方式が採用されています。比例課税とは、法人の所得の大小に関わらず一定の税率で課税される課税方式です。

日本における法人税の基本的な税率は原則として23.2%(2023年3月現在)であり、所得が多くても少なくてもこの税率で適用されます。ただし、中小企業に対しては特定の条件下で税率の軽減措置が存在し、例えば課税所得が800万円以下の場合には15%の税率が適用されるなど、事実上の税負担軽減がはかられています。

これらの措置は累進課税とは異なり、企業の規模に基づく課税の差異を設けるものです。

【出典】中小法人に対する課税に関する資料(財務省)

法人税の税率(普通法人の場合)

対象となる法人法人税率
中小法人(資本金が1億円以下)所得額が800万円超23.2%
所得額が800万円以下15%
上記以外23.2%

日本の法人税制度では、資本金の額と課税対象所得によってそれぞれ違う税率が定められています。例えば、資本金が2億円で課税対象所得が5,000万円の企業の場合、その法人税率は23.2%となります。計算すると次の通りとなります。

【資本金2億円の法人の課税所得が5,000万円だった場合】

課税所得(5,000万円)× 23.2% = 1,160万円

2023年3月現在では、23.2%が標準の法人税の税率とされています。この場合、資本金が1億円を超えるため、標準の税率が適用されます。

一方、資本金が1,500万円で課税対象所得が700万円の場合、課税所得が800万円以下であるため、軽減税率の15%が適用されます。計算すると次の通りとなります。

【資本金1,500万円の法人の課税所得が700万円だった場合】

課税所得(700万円)× 15% = 105万円

このように、資本金が1億円以下の中小企業には軽減税率が適用されることで、税負担が軽減されます。

経理プラス:法人税が免除されるケース|法人が赤字の場合に免除される税金は?

累進課税のメリット・デメリット

このセクションでは、累進課税制度の趣旨をもう一度確認したうえで、メリットとデメリットについてそれぞれ整理してみましょう。

メリット

累進課税制度の最大のメリットは、所得の高い個人により高い税率を適用することで、税負担の公平性を確保する点にあります。この方式は、所得が多いほど税金の割合が高くなるため、富裕層からの税金をより多く徴収して、それを社会保障制度の充実や公共サービスの向上に充てる機能があるのです。

またこのような、富の再分配機能を通じて所得格差を緩和し、経済的な不平などを是正する効果が期待されます。累進課税は、より多くの収入を得ている者が社会の維持費用に対して相応の貢献をするという原則に基づいており、税制の公平性を高めるとともに、社会全体の福祉向上に貢献すると考えられているのです。

もし、法人税に累進課税制度を導入すれば、高額所得の法人からより多くの税金を徴収できることとなり、社会的に富の再分配はさらに促進されることとなります。税収が増加すれば社会保障制度も充実するでしょう。逆に所得の大きくない企業は税負担が軽くなるので、法人間の格差は縮小し、収益力の小さい会社でも成長のチャンスが増えることになります。

デメリット

累進課税のデメリットとしては、富裕層に対してのみ厳しい税制となるがゆえに、経済活動にネガティブな影響を与えかねない点が指摘されます。高額所得者が高額の納税義務のために投資や消費を控えれば、経済成長にとってはデメリットとなるでしょう。

また、累進課税制度は税率の設定や管理が複雑で、税務申告のルールは分かりにくいものとなり、手続きが複雑になります。これにより、納税者の金銭的・事務的負担は増加するため、ますます高額所得者は国外に移住するなど、税金から逃れようとする人が増加するのではないでしょうか。

もし、法人税を累進課税方式にしたなら、デメリットとしては、高利益企業に対する過度の税負担が投資意欲を減退させることが予想されます。そうすると、研究開発や設備投資など、長期的な成長に必要な活動が制約されるでしょう。

法人税の累進課税制度によって設定された高税率によって国内でのビジネス環境が悪化すれば、資本の海外流出を招き、国内経済に悪影響を及ぼすかもしれません。また、累進課税制度の導入と運用には、税制の複雑化が伴い、企業の税務管理コストの増加や税務申告の煩雑化が予想されます。

これらの要因は、特に日本の90%以上を占める中小企業にとって大きな負担となりますし、経済活動に大きな影響を及ぼすので、累進課税の導入は慎重に検討されるべき課題だといえます。

まとめ

累進課税制度と法人税について解説し、考察も加えてきました。以上のことからわかる通り、法人税に関する累進課税の導入は、現行の比例課税制度と比較して様々な影響を及ぼす可能性があります。
累進課税がもたらす公平性の向上や所得格差の是正といったメリットは魅力的ですが、一方で経済活動への潜在的な抑制効果や税務管理の複雑化といったデメリットも無視できません。

法人税制の改革を考える際には、これらのメリットとデメリットを総合的に評価し、国内経済に及ぼす影響を慎重に考慮する必要があります。企業の健全な成長を促進しながら、国内の経済発展を図り、社会全体の福祉を向上させる税制を期待しましょう。

法人税の累進課税についてのQ&A

法人税の累進課税についてQ&Aをいくつかまとめてみました。

Q1. 法人税が累進課税ではない理由は?

「累進課税制度」になると企業が利益を上げるほど税負担が重くなり、投資や雇用の創出を抑制につながる恐れがあるからです。また、累進課税制度は所得の区分ごとに税率が異なるので税務計算が複雑になり、複雑な税務計算による企業の事務コストの増加や税務申告の負担増大も考えられます。このようなリスクを排除するため、法人税は累進課税にはなっていないのです。

Q2. 法人税に累進課税が導入される予定はある?

現在のところ、法人税に累進課税を導入する具体的な予定は公表されていません。日本を含む多くの国では、法人税は比例課税方式を採用しており、所得の大小にかかわらず一定の税率で課税されます。

累進課税の導入は、経済活動への影響、税制の公平性、税務管理の複雑化など、多方面にわたる影響を考慮する必要があるため、そのような大きな税制改革には慎重な検討と広範な議論が必要です。法人税の累進課税に関する動きや、具体的な計画は現時点で確認されていません。

Q3. 現在、累進課税の導入が検討されている税金はある?

累進課税は、所得税、相続税、贈与税に適用されていますが、2023年3月現在新たな累進課税の導入が検討されている税金は確認できません。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 公認会計士 梶本 卓哉

Kajimototakuya

税務署法人課税部門(税務大学校首席卒業)、大手監査法人や大手投資銀行勤務等を経て公認会計士・税理士事務所開設。税務のみならず会計監査やIPO(新規株式公開)実務に強みを有する。