決算前には必ずキャッチアップしておきたい、近年の税制改正5つ

決算前には必ずキャッチアップしておきたい、最近の税制改正5つ

毎年行われる税制改正ですが、近年は中小企業に影響が出る項目も多く経理担当者の皆様も注目しているところだと思います。

定期的に知識のブラッシュアップが必要と分かっていても、経理の現場では日々のルーチンに加えて年末調整や決算などのスポット業務も重なり、忙しくて詳しく見る時間を取るのはなかなか難しいというのが「経理の本音」ではないでしょうか。

しかし、毎日は無理でも年に1度の全取引を見直す決算の時くらいは最新の情報をキャッチアップしておきたいものです。
そこで今回は、経理担当者が押さえておきたい近年の税制改正項目をまとめました。

5つの改正項目 -法人税率、欠損金、交際費、雇用促進、所得拡大―

法人税率の引き下げと、中小企業の軽減措置の延長

法人税については、平成27年度はそれまでの25.5%から23.9%に引き下げられ、以降平成28年度は23.4%、平成30年度は23.2%まで引き下げられています。

平成24年度からは中小企業(主に資本金1億円以下の法人)に適用される所得800万円以下の軽減税率も19%から15%に引き下げられ、平成31年4月1日以降は、「適用除外事業者」と「適用除外以外の法人」で各19%、15%の2種類に分けられ、軽減措置は継続されています。

繰越欠損金の繰越期間の延長

欠損金が繰り越せる期間は平成20年4月1日以後9年間とされていましたが、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金額については10年間に延長されています。 尚、繰越欠損金の控除限度額は、平成30年4月1日以降開始事業年度では50%が適用されています。

交際費 ―有利選択制度等の延長―

平成26年4月以後に開始した事業年度から適用されている交際費の税制改正が令和4年年3月31日まで延長されます。
延長される内容は、次のとおりです。

  • 資本金1億円以下の中小企業が対象
交際費の損金算入限度額が、800万円という定額控除限度額に加えて、接待飲食費の50%相当額という限度の、二つから選べるようになりました。

  • 接待飲食費が年1,600万円以下の場合…800万円を損金算入
  • 接待飲食費が年1,600万円を超える場合…その額の50%を損金算入

  • 資本金1億円越えの企業が対象
  • 飲食費50%まで損金算入が可能

雇用促進税制 ―雇用者1人あたり最大90万円が税額控除―

平成30年4月1日より、雇用促進税制が「地方拠点強化税制」となり、「東京23区から本社機能を地方に移転する事業(移転型事業)と「地方において本社機能を拡充する事業(拡充型事業)」を対象に、一定の要件を満たした場合、法人税の税額控除が受けられます。
地方拠点強化税制の主なポイントは次のとおりです。

  • 控除額
  • 本社を有する施設の雇用者増加数1人あたりで、最大90万円(拡充型事業の場合は最大30万円)が控除されます。

  • 事前の書類提出
  • 税制の適用を受けるためには、事前に「雇用促進計画」をハローワークに提出が必要です。

  • 移転型事業は上乗せ措置
  • 本社機能を東京23区から移転させた移転型事業の場合、一定の要件を満たせば、基本的な税制優遇に上乗せして1人あたり40万円の優遇措置があります。

摘要要件は、基本的な項目と、上乗せ分の項目があります。詳細な内容については、厚生労働省の「雇用促進税制」をご確認ください。

参考:厚生労働省 雇用促進税制

所得拡大促進税制 ―増加額の15%が税額控除―

「所得拡大促進税制」は、以前から施行されているものですが、平成30年4月1日以降開始の事業年度では、大きく制度が変わっています。
中小企業向け制度の主なポイントは次のとおりです。

  • 対象事業年度
  • 平成30年4月1日から令和3年3月31日までに開始する事業年度

  • 控除の要件と控除額
  • 継続雇用者給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加した場合・・・増加額の15%を税額控除
    上乗せ分として、継続雇用者給与等支給額が前年度比で2.5%以上増加、かつ一定要件を満たす場合・・・増加額の25%を税額控除

「継続雇用者」として認められ25%の上乗せ税額控除の対象になるためには、一定の要件に該当している必要がありますので、事前に確認しておきましょう。 また、大企業向けには、平成30年4月1日以降開始の事業年度を対象に「賃上げ・生産性向上のための税制」が施行されています。こちらも以前の制度と内容が大きく変わっていますので、該当する企業はしっかりと確認しておきたいですね。

参考:経済産業省 平成30年度創設 賃上げ・生産性向上のための税制 ご利用ガイドブック

押さえておきたい項目 ―外形標準課税と、消費税の軽減税率―

経理担当者が押さえておきたい2つの税に関する動きを確認しておきましょう。

外形標準課税が中小企業にも適用

法人税は、利益に対して課税されるため「儲かっている会社」が課税されます。外形標準課税は、事業所の床面積や従業員数、資本金などによって課税されるため「赤字の会社」にも課税される税金です。
現在は資本金1億円超の大企業に限定されていますが、中小企業への適用が検討されています。平成27年度の税制改正では何とか見送られましたが、近年中に「赤字の中小企業」にも適用が拡大する可能性が高いためチェックが必要です。

消費税の軽減税率

令和元年10月1日から消費税が10%に引上げられ、これに伴い、消費税の軽減税率制度も同時に実施されています。 消費税軽減税率制度とは、飲食料品や新聞など一定の対象品目については、増税後も8%の旧税率が適用されるものです。8%と10%の2種類の消費税が混在することは、今までに経験のないものです。経理業務もはじめのうちは煩雑になっていますので、以前に増して正確に進めていくことが必要です。

経理プラス:軽減税率でいつから何がどう変わる? 基本を押さえて正しく対策

最後に

今回お伝えしてきました税制改正は、知らなければ誤りに気付かず業務を進めてしまうかもしれません。 知識のブラッシュアップは毎日できないにしても、毎年の年度末には必ず行い、今後の決算業務や申告業務に生かしてください!

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 服部 峻介

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北海道大学経済学部卒。有限責任監査法人トーマツ入社後、上場企業の監査、内部統制、IPO支援、株価算定、M&A、不正調査等を実施。経営コンサルティング会社役員を経て、Seven Rich会計事務所を開業。スタートアップ企業を中心に、3年で160社以上の新規クライアントに対して会社の設立から会計税務、総務、ファイナンス、IPOコンサルなど幅広い支援を行っている。

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