経理関係者に衝撃走る!インボイス方式導入と事務負担の増大

2015年12月3日、政府は消費税への軽減税率導入に伴う事業者の経理方式の全容をほぼ固めました。増税後4年間は、経過措置として今の請求書に近い簡易方式を採用する予定だが、2021年度よりインボイス方式の導入を義務づけるというものです。企業の経理部門にとっては、事務負担が大きく増える可能性のある制度改正となるため、早期に対策を考えておく必要があります。本記事では、インボイス方式とは何か、導入に当たっての課題について解説いたします。

 

インボイス方式とは?

「インボイス(invoice)」は、貿易業務に不可欠なものであり、貿易用語として頻出されるので、ご存知の方は多いと思います。「インボイス」は、通関手続きに必要な重要な書類として、「納品書、送り状および請求書」の役割を担い、輸出業者(売主)から輸入業者(買主)に対して発行される売買契約の条件である「商品名、数量、価格、代金の支払方法、運賃、保険」等の記載があります。
この貿易用語に類似している「インボイス方式」とは、先駆者であるEU諸国で採用される付加価値税に対する制度ですが、仕入(購買)側の課税事業者(消費税の納税義務がある事業者が対象、免除されている小規模事業者は除く)は、売上(販売)側の課税業者が発行する「インボイス」(販売対象である製商品ごとに消費税率と税額が明示された、納品書または請求書)に記載された税額のみを控除することができる方式です。 事業者(課税事業者・免税事業者)は、次のような義務があります。

  1. 課税事業者は「インボイス」の発行および自らが発行した「インボイス」の副本を保存する
  2. 「インボイス」に適用税率と税額を記載する
  3. 免税事業者は「インボイス」の発行は不可である。したがって、免税事業者からの仕入(購買)について、仕入(購買)税額控除は不可である

なお、「インボイス」には、運用税率・税額など法定による記載事項があり、EU諸国では、免税事業者と区別するため、課税事業者に固有の番号の付与を義務付けしていますが、「インボイス」の様式は特に定めておりません。

また、EU諸国の「インボイス方式」採用の背景として、次のことが考えられます。

  1. 異なる税率ごとに税額が明示されているため、売上(販売)側は、正確な税額転嫁が可能であり、仕入(購買)側は、正確な仕入(購買)の税額控除が可能となり信頼度が高くなる
  2. 免税事業者は「インボイス」の発行が不可のため、必然的に取引先に対する付加価値税請求は不可となり、売上(販売)に係る消費税から仕入(購買)に係る消費税を控除した金額である「益金」が免税事業者に留保されることは不可となり、公正さが保たれる

日本における「インボイス方式」導入は、現行の「請求書保存方式」からの大きな転換となり、制度改正に伴い、免税事業が取引から排除される危惧や企業側の事務負担の増大など多種多様な問題、課題等が想定されます。

 

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インボイス方式導入により増大する事務負担

事務負担の増大は、企業収益等にも大きな影響を及ぼします。特に中小・零細企業へは、大きな負担となりますが、最も影響が大きいと思われる企業規模300名程度の中堅企業を想定して記載します。

先ずは、どのような事務負担が発生するのか、前項「インボイス方式」の内容に記載しましたが、現行の「請求書保存方式」と比較し、具体例とともに対応策などを記載します。

  1. 現行の請求書等の記載事項に加え、税額や事業者識別情報(事業者番号等)などの記載事項の追加により、請求書等の様式改定が必要となり、新たな「しくみ」や「ICTなどのシステム」変更によるコスト増大を伴う
  2. 仕入(購買)が発生するごとに、課税事業者の「インボイス」と免税事業者の「請求書等」の仕分作業を要す
  3. 「インボイス」記載の税額と本体価額の区分、整理、仕分作業を要す
  4. 「インボイス」の保存は、発行者、受領者の双方が必要
  5. 上記のことを順守しない場合は、税務調査時に「税務否認」されることがあるので、留意を要す

これらの問題・課題は、個別にみると小さく見えますが、全社的課題として捉えることが重要です。事業(営業)部門のみならず、購買、経理、人事・総務そして何よりもIT(ICT)部門の関与が不可欠であり全社的連携が必須です。特に全社のデータが集中し統合される経理部門に係る「財務の信頼性」と「ICT部門の信頼性」の確立と融合、連携が大切です。

ICT時代の現状下では、たとえ小さな職務の新規設計、改善であっても「先ずは、その職務はICTシステム構築が可能であるか?」を模索し、PC(パソコン)にてExcel等で自主的に作成し、次に「ICTによるシステム構築」に向けてステップアップすることが肝要です。
ただ、「ICTによるシステム構築」は、多額の投資を要します。日進月歩のICTとは言え、投資効果・投資回収等を勘案し、ICTの基礎的な構造は、4~5年程度耐えうる設計が肝要です。
「インボイス方式」について、大企業は、当初から自社開発を含めたICTシステム構築の策定と実現、小規模企業は、PC等の活用範囲内で可能と考えますが、中間に位置する中堅企業は、「人・物・金・情報」等の経営資源が必ずしも不足しているわけではありませんが、十分ではなく、ICTシステム構築に係る自社開発は、人的資源、費用対効果等を勘案すると難しい課題と考えます。

ICTシステム構築は、当面の目的として、真の目的である「企業の成長発展」を実現するための手段あるいは通過点として考え、経営および業務効率ならびに経営管理の品質レベルの向上実現を戦略的に策定することが重要です。
また、ICTシステム構築投資は、目先のコスト削減ではなく、全社的なトータルコスト削減と職務遂行に係るスピードと正確性の双方を満足させる業務品質レベルの向上およびメンテナンスの充実などICTシステムに対する信頼性の高さが不可欠です。そのためには、ICTを事業とするプロ集団、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)、ERP(統合基幹業務システム)、クラウド等の支援、連携等を得て構築することが賢明な方策と考えます。

 

まとめ

「インボイス方式」は、日本がEU諸国と同様、先進国として避けて通れぬ重要な制度であり課題でありますが、千載一遇の機会として、前向きに捉えることが大切です。CSR(企業の社会的責任)の一環として、コーポレートガバナンス(企業統治)およびコンプライアンス(法令遵守)に則り、経営層が率先垂範、トップダウンで全社的な経営管理方法、戦略、組織体制等の見直しを図り、ICTの活用拡大とICTに係る人的育成等、効率的な経営、生産性向上、改善・改革・変革により企業収益の向上と企業の成長発展を図ることが肝要と考えます。

 

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● 著者
桶谷 吉隆

桶谷 吉隆

日本ゼオン株式会社(石油化学:東証一部上場)入社後、約35年間、管理部門関連の職務全般(監査・経営・企画・総務・人事・経理・システムなど)および営業職務を担当。新規事業、分社化プロジェクト等に参画、推進した。2006年以降、現役時代から温めていた夢である「上場(IPO)を目指す中小企業の成長発展、経営者および社員の方々に微力ながらも貢献できること」の実現を目指し、未経験および業界・業種が異なる3社の企業の常勤監査役を経験した。好きな言葉は「自ら動く」。



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