監査リスクの理解が監査コスト削減の鍵!

監査リスクの理解が監査コスト削減の鍵!

前回前々回において、無駄な監査コストをかけないために、監査の目的を理解し、勘定科目に設定された監査要点に合った資料を監査人に提出することが重要だと説明いたしました。さらに、新たな取引が発生した時にも監査人を上手に利用することでスムーズに監査を受けられるということをアドバイスさせていただきました。
今回も引き続き、監査コストを下げるために、監査対応担当者が知っておくべき知識を解説いたします。

そもそも監査はどのように行われているのか?

監査人は、財務諸表を構成する勘定科目について監査要点を設定し、この監査要点を検証することで、財務諸表が適切に作成されていることを確かめているということは、前回説明した通りです。
しかし、会社が一年間を通して行った取引の全てをくまなく監査人が検証することは、時間的にも人的資源的にも不可能です。
そのため、監査はリスクの高い事項、つまり財務諸表が適正に表示されない可能性の高い事項に対して重点的に行われます。具体的には、しかるべき能力のある人員を配置し、監査時間を多めに確保するといった対応がなされるということです。
このような監査の方法を「リスク・アプローチ」と呼んでいます。

リスク・アプローチはどのように行われるのか

リスク・アプローチは以下のような概念式で表されます。

監査リスク = 固有リスク × 統制リスク × 発見リスク

監査リスクとは、監査人が財務諸表の重要な虚偽の表示を看過して、誤った意見を形成する可能性を表しています。つまり、この監査リスクを低く抑えることが監査人には求められているということです。
上式は監査リスクを分解すると、固有リスク、統制リスク、発見リスクから成り立っているということを表しています。
それぞれのリスクについて説明いたしましょう。
固有リスクとは、仮に企業に内部統制が存在しなかった場合に、重要な虚偽表示がなされるリスクです。
次の統制リスクとは、重要な虚偽表示が、企業の内部統制によって防止されない可能性です。
そして、発見リスクとは、企業の内部統制によって防止されなかった重要な虚偽表示が、監査人が監査を実施しても発見されないリスクです。
監査人は監査リスクを合理的な水準まで低く抑えることが求められていますが、監査リスクの構成要素のうち固有リスクは勘定科目に特有なリスク、統制リスクは企業の内部統制次第で変化するリスクですので、監査人が高くしたり低く抑えたりできるものではありません。
そのため、監査人としては監査リスクを合理的に低い水準に保つため、固有リスクと統制リスクを評価した結果に応じて、発見リスクの程度を決定し、監査手続を実施することとなります。

具体的なリスク評価と監査手続の関係

このリスク・アプローチについて具体的に説明すると、たとえばある事項について固有リスクと統制リスクが共に高いと判断された場合には、監査人は発見リスクを十分に低く抑えるために、その事項について重点的に監査手続を実施します。
重点的な監査手続というのは、たとえば適切な能力のある人員を配置し、監査時間を多めに確保して、様々な手続きを組み合わせ監査を実施するということです。
このことを企業側からみれば、監査手続の増加は監査コストの増加を意味しますので、企業自身が監査におけるリスク・アプローチを理解して監査に備えることが監査コストの削減につながるというわけです。
監査リスクのうち、発見リスクは監査人によって高くしたり低くしたりされるものですので、企業側で対応することは不可能です。そのため、監査コスト削減には固有リスクと統制リスクを理解し対応することが重要となります。

固有リスクとは

たとえば「現金」という勘定科目に対して「実在性」という監査要点が設定されたとします。
前回説明した通り、実在性とは「本当にそれが存在するのか」という監査要点です。
固有リスクの評価は、内部統制が存在しない場合のリスク評価ですので、現金といった盗難や横領にあいやすい資産は、必然的に固有リスクが高くなります。
反対に、たとえば「土地」の実在性であれば、固有リスクは低くなるでしょう。
しかしながら、同じ土地でも監査要点が「評価の妥当性」であれば、固有リスクは高くなるかもしれません。土地は取得原価で計上するのが原則ですが、減損会計などにより価値下落を反映させなければならない場合があるためです。

統制リスクとは

統制リスクとは、重要な虚偽表示が、企業の内部統制によって防止されない可能性ですので、内部統制を適切に整備・運用することで低く抑えることができます。
しかし、過度な内部統制は運用コストが膨らむだけでなく、企業の柔軟な経営活動を妨げる可能性もありますので、固有リスクに応じた内部統制を整備・運用することが鍵となってきます。
たとえば、固有リスクが高く評価されやすい現金の実在性に対しては、取扱担当者と責任者を明確にし、取扱担当者が作成した現金出納帳を適切なタイミングで責任者がレビューし、内部監査部などにより不定期に実際有り高のチェックが行われるといった厳しい内部統制を整備・運用することで統制リスクを低く抑えることができます。
そうすれば、監査人も発見リスクを必要以上に高く評価しなくてよくなるため、監査手続を簡略化することができます。
一方で、固有リスクが低いと考えられる土地の実在性であれば、高めの統制リスクを許容して、より簡単な内部統制で良いかもしれません。
もちろん、内部統制は監査のためだけにあるわけではありませんが、適切な内部統制を構築することは、業務の有効性や効率性、法令の遵守や資産の保全といった経営上の目的を達成するためにも有効です。

まとめ

本稿で説明したように、勘定科目のそれぞれの監査要点に対して固有リスクを評価し、固有リスクの程度に応じた内部統制を整備・構築することで、監査人が発見リスクを合理的な水準に下げられる可能性があります。前回も申しましたが、監査人もなるべく企業の負担にならないように効率的に監査を実施したいと考えています。
発見リスクが下がれば、それに対応する監査手続もより簡便なものになりますので、結果として監査対応のためのコストを下げることができます。
現在、皆様の会社にも内部統制が存在していると思いますが、固有リスク、統制リスクといった観点から一度見直し、監査コストの低減を図ってみてはいかがでしょうか。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 大野 修平

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公認会計士・税理士 前職の有限責任監査法人トーマツでは銀行、証券会社、保険会社など金融機関向けの監査、デューデリジェンス、コンサルティング業務などに従事。 現在は、会計や税金を身近に感じてもらえる様々なイベントを運営している。 無類の読書好きで、蔵書が3,000冊を超えないようコントロールすることに頭を悩ませる日々。