消費税の簡易課税と原則課税 正しく理解してお得に節税しよう

消費税の簡易課税と原則課税 正しく理解してお得に節税しよう

消費税の納付額は通常、

課税売上等に係る消費税額(預かり消費税)-課税仕入れ等に係る消費税額(支払消費税)

で計算されます(原則課税)。

しかし、2年前の売上金額(これを「基準期間の課税売上高」といいます)が5,000万円以下であれば、原則課税か簡易課税か事業者がお得な方を選べますし、簡易課税を選択すれば、支払消費税にかかる帳簿付けも必要なくなるため事務負担が軽くなります。今回は、簡易課税について説明します。

簡易課税制度とは?

簡易課税制度とは、預かった消費税、つまり売上に係る消費税の計算は原則課税と同じですが、支払った消費税の計算については、課税仕入れ等の計算をすることなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行うことができる制度です。

仕入控除税額とは、消費税を計算する際に、預かり消費税から差し引く税額のことです。仕入控除税額は、原則課税の下では実額で計算されますが、簡易課税制度の下では、預かった消費税額に一定の割合を乗じて計算されます。この一定の割合をみなし仕入率といい、売上を6つの事業区分に分けて、それぞれの区分のみなし仕入率を適用します。

たとえば、卸売業を営んでいる事業者であれば、みなし仕入率が90%ですので、預かり消費税×90%が仕入控除税額となります。

原則課税制度との違い

原則課税制度と簡易課税制度の違いは、仕入控除税額の計算方法にあります。具体的にいうと、次の違いがあります。

原則課税制度支払った消費税額のうち一定の方法で計算した金額
簡易課税制度預かった消費税額×みなし仕入率

原則課税制度の場合、仕入控除税額の計算はかなり手間がかかる作業です。具体的には、①売上を課税売上と非課税売上に分類して集計する、②仕入を課税売上に対応するもの・非課税売上に対応するもの・共通して対応するものに分類して集計する、という作業が必要です。

一方、簡易課税制度の場合、上記の作業は一切不要です。仕入控除税額の計算に必要なのは預かった消費税額の情報のみですから、支払った消費税の情報は不要です(支払った消費税額の実額が何円であっても仕入控除税額の計算において考慮されません)。

なお、「預かった消費税額」は通常プラスの数字ですので、簡易課税制度の適用を受ける場合は預かった消費税額にみなし仕入率を乗じた金額を国に納めることになります。急激な景気変動などによって売上が激減し、預かった消費税額が支払った消費税額を下回った場合でも、簡易課税制度を選択している期間中は消費税の還付を受けることはできません。

簡易課税制度で気を付けたいこと

簡易課税制度は、中小事業者の事務負担を軽減しようという目的で導入されたので、適用にあたり条件があります。この条件は以下の通りです。

  • 前々年(または前々事業年度)度の課税売上高が5,000万円以下
  • 「消費税簡易課税制度選択届出書」を適用しようとする年または事業年度開始の日の前日までに提出する

たとえば、3月決算法人が2022年度から簡易課税制度の適用を受ける場合は、2022年3月31日までに届出書を税務署へ提出する必要があります。

届出を行った事業者は、最低2年間簡易課税制度が適用となり、原則課税に戻すことができません。また、届出を行っていても、基準期間の課税売上高が5,000万円超となった場合は原則課税となります。事業者にとっては、簡易課税を適用することにより、2年間トータルでお得になるかどうかを考える必要があります。課税売上高が5,000万円超になりそうな時は、原則課税になることも勘案し、支払消費税の計算ができる帳簿付けが必要となってきます。

インボイス制度と益税問題の解消

2023年10月からインボイス制度が導入されます。インボイス制度を導入する目的の一つに消費税の「益税問題」の解消があります。
消費税を負担するのは消費者ですが、実際に国へ納税するのは事業者です。たとえば雑貨屋が1,000円で仕入れた箸を1,500円で消費者へ販売した場合、1,500円の10%(150円)と1,000円の10%(100円)の差額である50円を国へ納税するのが原則です。

ただし、この雑貨屋が消費税の免税事業者である場合、雑貨屋は50円を国に納税する必要はありません。これが「益税問題」の一つです。インボイス制度を導入することで、こうした免税事業者が自ら課税事業者となるような仕組みを作り、この50円をきちんと国に納税させて益税問題を解消しようとしています。
以上がインボイス制度の導入で解消を目指している益税問題です。益税問題にはもう一つあり、それがこの記事で紹介している簡易課税制度に起因する問題です。

これまで紹介した通り、簡易課税制度における仕入控除税額は預かった消費税額×みなし仕入率で計算します。極端なことをいうと、支払った消費税額の実額が0円であっても、簡易課税制度を選択すれば一定の金額が「支払った消費税額」であるとみなされます。

たとえば、システムエンジニアの方の税抜売上が2,000万円、税抜課税経費が100万円だとします。この場合、原則課税であれば2,000万円の10%から100万円の10%を引いた190万円の消費税を納税しますが、簡易課税であれば200万円の50%(100万円)を控除できるため、納税すべき消費税額が100万円で済みます。この190万円と100万円の差である90万円が「益税」と言われている部分です。

インボイス制度の導入と簡易課税制度における益税問題は直接的に関係するものではありません。ただ、国として益税問題の解消を目指していることは間違いないので、今後簡易課税制度が大きく改正される可能性もあることにつき、注意が必要です。

どんな時にお得になる?中小事業者は賢く選択、簡易課税と原則課税

簡易課税制度を適用すれば、支払消費税の計算のための帳簿付けは不要となるので、事務負担は明らかに減ります。しかし、事業者の状況によって、税負担は増す場合もあります。どのような場合に税負担が軽くなり、どのような場合に重くなるのでしょうか?

税負担が軽くなる場合

たとえば、美容室などのサービス業を営んでいる場合、みなし仕入率は第5種事業(サービス業等)の50%が適用されます。支払給与は消費税の課税対象外であるため、サービス業で売上に対する給与支払の割合が高い場合は一般的に税負担が軽くなると考えられます。

たとえば、課税売上4,000万円(税抜)、給与が2,000万円、課税仕入が1,000万円(税抜)の会社を想定すると、原則課税の場合、預かり消費税が4,000万円×10%=400万円、支払消費税が1,000万円×10%=100万円となり、消費税の納付額は400万円-100万円=300万円です。なお、2019年10月1日から軽減税率が施行されていますので、実務的には消費税は10%と8%が併用されます。

一方、簡易課税の場合、預かり消費税400万円にみなし仕入率を乗じて仕入控除税額とするので、仕入控除税額は400万円×50%=200万円となり、400万円(預かり消費税)-200万円(仕入控除税額)=200万円が納付額となります。よって簡易課税も適用した方が、300万円-200万円=100万円お得になります。

税負担が重くなる場合

上記の事業者で、2,500万円の機械(課税仕入)を購入したとしましょう。すると原則課税の支払消費税の金額が(2,500万円+1,000万円)×10%=350万円となり、原則課税での消費税の納付額は400万円-350万円=50万円となります。一方、簡易課税においては支払った消費税額を考慮しないので、簡易課税の場合の納付額は200万円のままです。この場合は原則課税を適用した方が200万円-50万円=150万円お得になります。

上記のモデルは、簡易課税と原則課税をわかりやすく説明するための簡易モデルであり、実際の消費税税額の金額と異なる場合がありますので、ご留意ください。

最後に

いかがでしたか?
簡易課税を選択すると事務負担は明らかに軽くなりますが、税負担は重くなる場合もあります。簡易課税を選択するかどうかの意思決定は、事業者の課税売上に対する課税仕入の割合を把握すること、大きな設備投資計画など課税仕入が増える事象がないかどうか考慮することが肝要です。また、簡易課税制度を1度選択すると、2年間は変更できませんので、2年間トータルでの節税効果を考えることも必要となります。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 税理士 川口 拓哉

著者

税理士(近畿税理士会)。2017年の税理士試験で官報合格。個人の税金から法人の税金までの幅広い税目について知識と実務経験を有する。川口拓哉税理士事務所所属。

川口拓哉税理士事務所