多くの企業が移行を検討する『監査等委員会設置会社制度』とは?

多くの企業が移行を検討する『監査等委員会設置会社制度』とは?

2015年5月1日に施行された会社法改正により、新しい機関設計である監査等委員会設置会社への移行が可能となりました。これを受け、東証1部に上場している約2,100の企業のうち、500社を越える企業が監査等委員会設置会社となっています(*)。 本記事では、監査等委員会設置会社制度の概要を紹介いたします。

(*)日本取締役協会「上場企業のコーポレート・ガバナンス調査」(2020年8月1日)より参照

制度導入の背景

従来、日本は特有のコーポレート・ガバナンス制度を構築してきましたが、次のような課題が指摘されていました。

日本の監査制度は世界的にも特殊であり、海外からの理解度が低い

監査の実効性を担保するために監査役の地位を高めてきたが、外国人投資家にとって馴染みがなく、海外からの評価は高いとはいえなかった。

指名委員会等設置会社の制度が十分に機能していない

日本企業の欧米からの評価を高めるために2003年に導入された米国型ガバナンス制度「指名委員会等設置会社(旧:委員会等設置会社)」については、役員人事権や報酬決定権を社外役員に委ねることの抵抗感や社外取締役人材の不足により導入が進んでいない。実際、上場会社のうち 60社程度しか導入されていない(2018年現在)。

社外取締役と社外監査役の役割が重複している

社外取締役と社外監査役の役割が重複しているという実態がある。議決権を有しているか否かの違いはあれ、取締役の意思決定と業務執行を監視・監督するという役割について重複している。

上記の現行制度の課題を解決しながら、多くの日本企業にとって実際に導入可能であり、かつ、海外からの高い評価が得られるガバナンス体制を構築できる制度として、監査等委員会設置会社制度が導入されました。

監査等委員会設置会社の特徴

外国人投資家からの評価が高い

監査を担当する監査等委員(3名以上)全員が取締役であり、代表取締役の任免権を有する点において、外国人投資家等からの評価が得られやすいといわれている。

取締役会のスリム化が可能

監査役会設置会社においては、取締役3名以上、かつ、監査役3名以上、計6名以上の役員により取締役会を構成することが求められていた。一方で、監査等委員会設置会社では、業務執行権を有する取締役1名以上、かつ、業務執行権を有さない監査等委員たる取締役3名以上により取締役会を構成することが求められており、最低4名の取締役のみ(監査役は不要)で足りる点が特徴的である。

移行事例が多い

2015年5月1日の施行以来、監査等委員会設置会社に移行した社数は年々増えており、従来の指名委員会等設置会社の導入社数(約60社)と比較して、多くの企業にとって移行可能な制度であることが分かる。

大企業から中堅企業まで、幅広い企業が移行している

監査等委員会は移行企業にとっての負担が小さく、大企業だけではなく中堅企業の移行事例も多く見られます。また、移行企業の業種も特に偏りは見られません。時価総額別に移行事例(一部)を紹介いたします。

時価総額1兆円以上

  • ユニ・チャーム(製造)
  • サントリー食品インターナショナル(製造)
  • 三菱重工業(製造)
  • ヤフー(情報通信)
  • 電通(広告)

時価総額100億以上

  • トリドール(外食)
  • イグニス(情報通信)
  • ベルーナ(小売)
  • 山形銀行(金融)
  • プレサンスコーポレーション(不動産)

時価総額50億未満

  • ゼット(卸売)
  • アールシーコア(住宅)
  • いい生活(情報通信)
  • 明豊エンタープライズ(不動産)

※時価総額は、 2019年8月初旬の株価をベースに計算
※順不同

上記より、企業規模、業種、社歴を問わず、幅広い企業が監査等委員会設置会社へ移行していることが分かります。

コーポレートガバナンス・コードと監査等委員会設置会社

2015年5月、東京証券取引所にて策定された「コーポレートガバナンス・コード」によると、東京証券取引所に上場する会社は2名以上の独立社外取締役を選任する必要があり、実施しない場合はその理由を説明する必要があります。

監査役会設置会社では、監査役である2名以上の社外監査役とは別に2名以上の独立社外取締役を選任する必要があり、多くの上場企業にとっては相当な負担になるという課題がありました。一方で、監査等委員会設置会社では、従来監査役の役割を担っていた者が社外取締役としてカウントされるため、コーポレートガバナンス・コードが求める基準をクリアしやすいというメリットがあります。

コーポレートガバナンス・コードの公表が、監査等委員会設置会社への移行企業を増やす後押し材料になったと推測できます。

監査等委員会設置会社への移行を検討しましょう

監査等委員会設置会社は多くの上場企業がメリットを感じている制度であり、実際に移行を始めています。まだ、本格的な移行検討ができていない企業は、一度検討をしてみましょう。

また、上場企業に限らず、将来IPOを目指すベンチャー企業にとってもメリットがある制度です。主幹事証券会社等と相談しながら、IPO前に監査等委員会設置会社へ移行することを検討してはいかがでしょうか。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 堀 直之

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2007年4月、大和証券SMBC株式会社(現 大和証券株式会社)に入社し、IPO・M&A等のアドバイザリーを担当する投資銀行部門にて、主に製造業セクターの事業法人への財務アドバイザリー業務に携わる。 2012年3月、株式会社アイスタイルに入社し、経理業務のほか、海外子会社の設立・管理、M&Aその他投資業務、マザーズから東証一部への市場変更等の幅広い業務に携わる。2013年7月、株式会社もしもに入社し、取締役として主に経営企画・管理部門を統括。