平成28年度税制改正情報 -法人税・欠損金編-

平成28年度税制改正情報 -法人税・欠損金編-

平成28年度の税制改正では、法人実効税率を20%台にするということと引き替えに課税ベースの拡大が実施されました。その中でも実務上大きな影響を及ぼすのが欠損金の制限です。

今回は、繰越欠損金の控除上限の段階的縮減を中心にお話しをしたいと思います。

欠損金の繰越控除制度の改正

①平成27年度税制改正による青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度及び連結欠損金の繰越控除制度における控除限度額の段階的な引下げ措置について、以下の様に変更されました。
この引き下げによって法人実効税率が30%を切ることが達成されたと言われています。

平成27年度税制改正後改正案
事業年度開始日控除限度割合事業年度開始日控除限度割合
平成27年4月~平成29年3月100分の65平成27年4月~平成28年3月100分の65
平成28年4月~平成29年3月100分の60
平成29年4月~100分の50平成29年4月~平成30年3月100分の55
平成30年4月~100分の50

改正により、どのような影響が出るのか具体例で考えて見ましょう。
たとえば、平成28年4月1日開始事業年度において欠損金控除前の所得が1億円あるとすると、青色の控除未済欠損金額が2億円あったとしても、当期控除額は6千万円(1億円×60/100)で頭うちとなり、課税所得金額は、4千万円(1億円-6千万円)となります。このように多額の控除未済欠損金額があったとしても、所得が発生した事業年度においては、課税所得金額を0まで減らすことはできず、その35%~50%に対する課税が生じることになります。

②平成27年度税制改正による次の措置(平成29年4月1日施行)について、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額について適用することとなりました。

イ:青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越期間及び連結欠損金の繰越期間を10年(現行:9年)に延長する措置

ロ:青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度及び連結欠損金の繰越控除制度の適用に係る帳簿書類の保存要件における保存期間を10年(現行:9年)に延長する措置

ハ:法人税の欠損金額に係る更正の期間制限を10年(現行:9年)に延長する措置

ニ:法人税の欠損金額に係る更正の請求期間を10年(現行:9年)に延長する措置

上記の改正により、繰越欠損金の活用にはさらに制限がかかり、活用できる前に切り捨てられる可能性も高まりますので、繰越欠損金の活用を長期的に行う視点を持つようにしましょう。
また、税効果会計を適用している会社に関しては、繰越欠損金に対する繰延税金資産の計上の要否を将来のタックスプランニングに基づいて再考をする必要があるかもしれませんので、その点も留意しましょう。

減価償却資産の償却方法の変更

課税ベースの拡大のひとつとして、減価償却資産の償却方法の見直しが行われます。具体的には、平成28年4月1日以後の取得する下記の資産につき、定率法を廃止し、これらの資産の償却の方法が次のとおりとなります。

資産の区分現行改正案
建物附属設備及び構築物
(鉱業用のこれらの資産を除く)
定額法又は定率法定額法
鉱業用減価償却資産
(建物、建物附属設備及び
構築物に限る)
定額法、定率法又は
生産高比例法
定額法又は生産高比例法

定率法を適用していた会社にとっては定額法への変更によって、投資初期において多くの償却費を計上することが出来なくなりますので、投資時点での所得は改正前よりも大きく算出されることになると思います。
既に、建物は定額法に一本化されていましたが、今回建物付属設備と構築物も定額法しか選択できないように改正されました。今後、課税ベースの拡大を実現するために機械装置や工具器具備品等の固定資産も定率法が認められなくなる可能性がありそうです。

法人税の税率の引き下げはされましたが、今後も課税ベースの拡大を伴う改正が行われていることが予想されますので、税制改正の動向には毎年注意していきましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 中尾 篤史

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CSアカウンティング株式会社専務取締役  公認会計士・税理士 日本公認会計士協会 租税調査会 租税政策検討専門部会・専門委員 会計・人事のアウトソーシング・コンサルティングに特化したCS アカウンティング㈱の専務取締役として、中小企業から上場企業及びその子会社向けに会計・税務のサービスをひろく提供している。 著書に「BPOの導入で会社の経理は軽くて強くなる」(税務経理協会)「たった3つの公式で「決算書」がスッキリわかる」(宝島社新書)「経理・財務スキル検定[FASS]テキスト&問題集 」(日本能率協会マネジメントセンター)など多数

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