ポイント解説!減資時の仕訳(会計処理)方法

ポイント解説!減資時の仕訳(会計処理)方法

会社法が施行された2006年より様々な目的での減資手続きが認められるようになり、これに伴い多くの会社が複雑なスキームの減資を行うようになりました。一方、減資の会計処理のパターンは増えているものの、きちんと整理することができれば簡単に理解することができます。本稿では、減資のパターン別にその仕訳(会計処理)について解説をしたいと思います。

減資の基本をおさえましょう

減資は、会社法第447~449条に定められています。貸借対照上の純資産の部に主に関連する事項です。この会計処理を行う前に、関係する勘定科目の性格と制約をきちんと理解しておくことが大切です。
まず、純資産の部は、株主から拠出された金額とそれを用い得た利益を主に示すところです。会社計算規則第76条にてその内容が、定められています。ここでは株式会社の貸借対照表の純資産の部について示すことにします。

株主資本
資本金
新株式申込証拠金
資本剰余金資本準備金
その他資本剰余金
利益剰余金利益準備金
その他利益剰余金
自己株式
自己株式申込証拠金
評価・換算差益等
新株予約権

減資に関係する項目は、「株主資本」の中の「資本金」、「資本剰余金」の中の「その他資本剰余金」と「利益剰余金」の中の「その他利益剰余金」になります。
資本金・資本準備金・その他資本剰余金・利益準備金・利益剰余金の減少は、原則として株主総会決議が必要とされています。

会社法は、資本金の額の減少等と剰余金分配(会社法第453~458条)は別の事象として定めているので、株主への配当等は会計処理においても区分する必要があります。
また、資本金・資本準備金・利益準備金の減少効力発生には、債権者保護手続きの完了が条件とされているものがあります。この効力発生の時期は、会計処理をいつ付で行うかに関連します。
次に、資本金を減少させ株主に払い戻す場合と資本金を減少させ欠損の補填に充てる場合の会計処理を詳しく見てみましょう。この2つは、基本となる会計処理で、これをきちんと理解することで一見複雑に見えるスキームにも対応することが可能になります。

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資本金減少と株主払戻し

2015年6月30日の定時株主総会の特別決議により、資本金50百万円を減少し、同時にそれにより増加させるその他資本剰余金を財源として株主に同額払戻すことを決議した。その後8月31日に債権者保護手続きが完了した。なお、株主総会特別決議にて決議した効力が発生する日は、債権者保護手続きが予定より長引いたため、9月1日に変更されている。

仕訳転記日 2015年9月1日
仕訳

(借方)    (貸方)
資本金50,000,000その他資本剰余金50,000,000
その他資本剰余金50,000,000未  払  金50,000,000

  1. 転記日は、株主総会決議の日ではなく、債権者保護手続きが完了し、その効力を発生する日になります。なお、転記日は総勘定元帳に転記する取引日で、仕訳を作成する起票日とは異なります。
  2. 仕訳の貸借にその他資本剰余金が同額計上されています。これを相殺しても、試算表や決算書には何らの影響はありません。しかし、前述のように会社法は資本金の額の減少等と剰余金の分配を分けているので、このような処理になります。
  3. この例では、その他資本剰余金という貸借対照表科目をそのまま使いましたが、実務上は内容を適切に示す勘定科目を設け、それを使うことになります。多く見受けられる勘定科目名として、資本金減少差益があります。

資本金を減少させ欠損を補填

2015年6月30日の定時株主総会の普通決議により、資本金80百万円を減少させ欠損金80百万円を補填することを決議し、その決議で定めた7月31日までに債権者保護手続きが完了した。

仕訳転記日 2015年7月31日
仕訳

(借方)(貸方)
資本金80,000,000その他資本剰余金80,000,000
その他資本剰余金80,000,000その他利益剰余金80,000,000

    1. 仕訳転記日は、前記と同じです。
    2. 仕訳に登場する科目名は、前記では未払金、この仕訳ではその他利益剰余金と異なる以外同様の科目になります。
    3. 会社法に従い計算した結果の欠損金の額(ゼロから分配可能額を差引いた金額 会社法施工規則第68条)がたとえば78百万円と減少させる資本金の額よりも少ない場合、この普通決議は会社法違反となります。この場合には、定時総会であっても特別決議が求められます。そして、仕訳は次のようになります。

仕訳

(借方) (貸方)
資本金80,000,000その他資本剰余金80,000,000
その他資本剰余金78,000,000その他利益剰余金78,000,000

  1. 貸借対照表科目のその他利益剰余金を使いましたが、勘定科目としては繰越利益剰余金といったその内容を示すものが多く使われています。

減資の仕訳では順法と順序が肝要です

資本金の減少に関する仕訳は、このように特別複雑なものではありません。しかし、その背後にある会社法の定めをきちんと理解する必要があります。株主の拠出金の取扱いと利益の蓄積のそれを分ける基本的考え方を踏襲するとともに、金額算定には細心の注意を払うことが必要です。特に、欠損補填の際には分配可能額の算定が重要で、減少させる資本金の額との関係で定時株主総会の普通決議で良いのか、特別決議が必要なのかを左右することになります。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 高野 英之

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米系監査法人で会計監査現場責任者、証券会社でM&A、特殊債権発行などの事務責任者、米系輸入販売企業でアジア統括管理部長を経て、米系製造企業にてSAP会計・ロジ系導入統括、経理財務業務再構築、海外関係会社内部監査などを行い、2014年自己の公認会計士事務所でコンサルティング業務開始。62歳。趣味:ドライブ、ヘラブナ釣り